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リュートカレンダー8月の絵 [愛しのリュート達]


このところ、気温35度を超える猛暑が続いています。
暑いですねー!

せめて涼しげな格好でリュートやガンバを弾いている女性たちの絵を鑑賞して
暑さをしのぎましょう。

リュートカレンダー8月の絵は、ヤン・ファン・ベイレルトの【コンサート】です。
Jan Hermansz van Bijlert(1597 or 1598-1671) “The Concert”

Jan_van_Bijlert のコピー.jpg


頭につけているのは、豪華な羽飾り。うさぎ耳ではありません。
この時代の風俗画の衣装としてよく描かれていますね。

頭にはこんな飾りをつけているのに、身体のほうは官能的すぎる薄着(というか半裸)で、
これは一体どういうシチュエーションなのか?!と考えますに、
ここは売春宿で この女性たちは娼婦ということでしょう。

このような場での作品は当時オランダで数多く描かれ、その裏には道徳的な教訓が込められることも。
(どのような意図を汲み取るかは、ご自由に)

タイトルは「コンサート」ですが、現代でいう観客を前にした演奏会ではなく、
自分たちが楽しむための日常的な合奏風景。

手前に二人の女性奏者たち、奥の左端にリコーダーを吹く男性がいて、中央の男性は歌手でしょうか?

この絵を見ると、何とも落ち着かない感じがするのですが、
それは人々の視線がまったく交差していないからだと思い当たりました。

つまり、リコーダー奏者は歌手のことを気にしつつも、歌手はどこを見ているのやら、うわの空、
ガンバ奏者はリュート奏者に視線を送って合図をしている風なのに、
リュート奏者は 私たち鑑賞者へ熱い視線を送っていて、全く他の3人のことを気にしていない。

このアンサンブル、だめなんじゃ・・ちゃんと一緒に合奏できてるのかしら・・と
不安になる構図です。

逆に言うと、絵の世界だけで完結してなくて、こちら側へと開かれているが故に、
とても親しみを感じ、そこでの音の響きに思わず耳を澄ましたくなる、
あるいは自分も一緒にアンサンブルに参加している気分になる作品とも言えるでしょう。
その両方の世界をつなぐ役割をリュート奏者が担っているのです。


あまり高解像度の画像を見つけられなかったのですが、リュート部分を拡大、
少し露出をあげ、シャープをかけてみます。

concert-up.jpg

弦の数を数えてみると、10コース・ルネサンスリュート(1コースは単弦)。

フレットについては判別できず不明。

珍しく、テーブルに寄りかからずに、脚を組んでリュートを持っています。

左右の手の形も自然で、持っているだけでなく、実際弾いているんだろうなと思わせる
リアリティがあります。
聞こえてくるのは、g-minorの和音。


            ***

作者ファン・ベイレルトは、オランダ・ユトレヒト出身の画家で、カラヴァッジョ派の一人。

自画像(1649年作/51歳の頃)

Portrait_de_Jan_Van_Bijlert.jpg

成功した画家であり多作家でもあったのですが、ややマイナーなのか、
ネット上に画像は多くありません。

他のオランダの画家と同様、人々の日常生活の一コマを描いた風俗画を得意とし、
それらの中に楽器を奏する人々が描かれています。


            ***
では、この画家の他の作品を紹介します。

同じく【コンサート】“The Concert”と題された作品。

Jan_van_Bijlert_The_Concert-1.jpg


右端の床に、リュートが伏せて置いてあります(ガンバのおじさんに蹴られそう、ハラハラ・・・)
これも集った人々が合奏を楽しむ様子を描いたものと思われますが、
右から、ハープ、リコーダー、ガンバ、シターン(?)、ヴァイオリン。
胸を露わにした女性と男性は楽譜を前に、歌っているのでしょうか。
奥の左端の男性は、勢いよく高いところからお酒をグラスに注いでいるところです。

この状況でどんなサウンドが聴こえてくるでしょう。

そして、この作品もまた、中央のシターンを弾く女性が振り返りつつ視線を私たちへと送り、
各メンバーの視線はそれぞれ別の方向へと向いていて、絡みあうことはない構図となっています。


【音楽の仲間】“Musical Company”

Jan_van_Bijlert_-_Musical_Company_-_WGA02182 のコピー.jpg

11コース・バロックリュートかと思われます。
8コースリュートに、少しずつナット部分を継ぎ足して、
拡張したバス弦を載せてみました・・・みたいな形の糸巻き部分になっています。
この時期のオランダの絵画にちょくちょく登場するタイプのリュートです。

ヴァイリンとリュートの合奏、または左端の男性も歌手として参加していると思われるものの、
これもまた視線が合うことのない「音楽の仲間」・・・。


次に【リュートを弾く若者】“A young man playing lute”

playlute のコピー.jpg

これはなかなか珍しいポーズです。
テーブルにリュートを乗せて、中腰で立っているようにも見えます。
こちらへ向けた挑発的な視線が鋭すぎて、リュートがもはや武器のように見えるほど。

肝心のリュートの姿はほとんど見えないけれど、
ペグボックス(糸巻き部分)にユニークな特徴があります。

playlute.jpg

6コースに、拡張したバスを載せるために小さなペグボックスを継ぎ足したような形。
前の作品のリュートともちょっと違う形をしています。

長い棹の方のナットには2コース分の弦が載っているように見えるものの、
ペグはもう1セットあるようにも見えます。



次も【音楽の仲間】“Musical company” と題された作品で、最近発見されたもの。

BijlertMusical のコピー.jpg

豪華な衣装のほろ酔い気分の男性。リュートで音をとりながら歌の練習中でしょうか。
右手の仕草が、拍子をとってリズムを数えているようにも、
メロディーの抑揚を示しつつ みんなをまとめているようにも見えます。

背後にいる男性ふたりも、大きく口を開けて声を張り上げている様子ですが、
この二人、距離が近すぎでは。
この作品もまた、お互いの視線が交わることはなく、見ていて不安がよぎるものの、
3人のおじさんたちの口元には愛嬌があり、
大声で歌うことの無邪気な喜びが伝わってくる作品。


この作品は カラヴァッジョの影響を最も強く受けていた時期(1624年頃)の作品で、
リュートの描写もとりわけ精密です。

BijlertMusical-light.jpg

1コースも複弦に張った、8コース・ルネサンスリュート。

BijlertMusical.jpg

フレットはシングル巻き。
糸巻き部分に、巻き残した弦の端が 飛び出している様子も描かれています。





【音楽やってる仲間たち】“Making music company”(1629年ごろ)

musicmak1.jpg

この作品には、合奏が上手くいってそうだ、と思わせてくれる安心感があります。

両端の男性二人は別として、中央5人は一つのテーブルの方を囲み、
シターンを弾く女性とその肩を抱く男性とは見つめ合い、
ヴァイオリンとリュート(6コース・ルネサンスリュート)を弾く男女は
同じ楽譜に視線を注いでいます。

皆に右手で合図をしつつ歌っている女性と、
楽譜なんか見なくても余裕だよ、という雰囲気の左端のハープの男性は、
私たちの方へと視線を送り、合奏への参加を促しているようにも。

musicmak.jpg

ハープの男性の足元には、楽譜と共に、トロンボーンらしき金管楽器、
ガンバ、タンバリンなどの楽器が転がっています。

どの楽器なら参加できそうでしょう?(私は憧れのタンバリン一択です)

        ***

この作家は、描かれた人物たちの視線の扱いが面白いなあと思って、
ここまで作品を見てきましたが、最後に私が一番受けた作品を紹介させてください。

ギリシャ神話をテーマにしたものです。

【キューピッドを折檻するヴィーナス】“Venus chastising cupid”

Jan_van_Bijlert_-_Venus_Chastising_Cupid_-_Google_Art_Project-1.jpg

珍しいテーマだと思いますが、
人物(神様というべきか)の描写に関してはまあ、普通。


その様子を見ている右端の鳩たちにご注目!

Jan_van_Bijlert_-_Venus_Chastising_Cupid_-_Google_Art_Project.jpg

「おー、こわこわー。ヴィーナス怒ると怖いよ。逃げようぜ」


この鳩たちにすごく感情移入してしまいました。

      *****

今回の絵画作品から聞こえる音楽は・・・


    

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