SSブログ
愛しのリュート達 ブログトップ
前の10件 | 次の10件

オルフェウスと可愛い動物たち [愛しのリュート達]


前の記事では、オルフェウスが奏でるリュートを聴いていたのは、草花や海や鉱物でした。
しかしながら、「Orpheus」で画像検索をかけて出てくる絵の多くは、
可愛らしい動物たちに囲まれているオルフェウスの絵です。

これいいな!と思う絵は有名な作家の作品ですが、テーマが関心度低いものなのか、
どれもpublic domainになっていません。
著作権の問題がありますので、ここではリンクを載せておきます。


その歴史も非常に古いこともこちらの記事からわかります。

多くは 竪琴(リラ)を弾いていますが、ヴィオラ・ダ・アルコ、
またはヴァイオリン系の楽器を弾いているオルフェウス像もかなり多く見られます。



Gennari Benedetto(1633-1715) 作 左端の犬が前脚を膝に載せている! 


orpheusplaying his lyre (Gennari Benedetto I).jpg



Francesco Bassano(1549-1592)作  足元で、猿が楽譜を持っている!

orpheus.jpg

まあ、動物たちの可愛らしいこと!



シェイクスピアは、当時最も身近にあったリュートをオルフェウスに持たせているわけですが、
そうなると、スペインのオルフェウスが弾くのは、ビウエラということになります。

ルイス・ミランのビウエラ曲集(1536年)より。

Vihuelaplayer.jpg

この曲集の絵、今までビウエラにばかり目がいって気がつきませんでしたが、
周りに 鳥、犬、ウサギなど、動物がいっぱいいますね。



さて、肝心のリュートを持っているオルフェウスの絵は見つからないなーと思っていたら、
以前、似たような絵をブログにアップしていたのを思い出して発掘。



Cornelis Cort(1533-1578)作 

630px-Cornelis_Cort_-_Hearing_-_WGA05359.jpg


この作品タイトルは「Hearing:聴覚」となっていて、バグパイプやコルネット、オルガンに至るまで、
ところ狭しと楽器が並べられています。ガンバは足蹴にされている(笑)。

作家Cornelis Cortはオランダの銅版画家。

この作品の状況は、オルフェウスと考えていいのかと思ったのですが、
作家の別の作品に、「荒野の聖オルフェウス」というのがあり、
しかもその画像が公開されていない、という問題にぶちあたりました。

ということで、これについては一旦保留。
この絵も可愛いよね。(鹿の口元がつぼ。)




nice!(0) 
共通テーマ:アート

もう一つのオルフェウス@シェイクスピア [愛しのリュート達]



Jean-Baptiste-Camille_Corot_-_Orphée.jpg

Jean-Baptiste-Camille  Corot(コロー)による作品「Orphee 」。
ギリシャ神話に基づき、リラ(竪琴)を手にしています。


2016年7月に北海道で行うリュートコンサートのチラシ裏で引用している
シェイクスピアの文章、スペースの関係で省略しておりますので、
ここでその詩の全体を記載しておきます。
(拙訳につき、詩の押韻などは日本語には反映させていませんが、ご了承ください。)

 

『ヘンリー八世』(第3幕第1場)

 

Orpheus with his lute made trees,

And the mountain tops that freeze,

Bow themselves when he did sing:

To his music plants and flowers

Ever sprung; as sun and showers

There had made a lasting spring.


Every thing that heard him play,

Even the billows of the sea,

Hung their heads, and then lay by.

In sweet music is such art,

Killing care and grief of heart

Fall asleep, or hearing, die.

   

オルフェウスがリュートをとって歌えば、

樹々や凍った山の頂も、         

その身を低くして耳を傾ける。

オルフェウスの調べにつれて 草や花は萌出でる。

陽の光と雨の恵みがそこに

永遠の春をもたらしたかのように。

 


オルフェウスの歌声を聞いたものはみな、
海の高波さえも
その波頭を鎮めて凪いでしまう。
その甘美な音楽にはそのような不思議な働きがあり、
心配事や深い悲しみは 
眠りにつき、やがて死に絶える。

 

 

 


これについては、これまでも何度か書いていますが、

実は、シェイクスピアの他の作品にも、
オルフェウスがリュートを弾くシーンがあることを知りました。



『ヴェローナの二紳士』(第3幕第2場)

ある女性に想いをよせる青年に「ラブレターを書いてみてはどうか」と
友人がアドヴァイスしているシーン。


Say that upon the altar of her beauty 
You sacrifice your tears, your sighs, your heart: 
Write till your ink be dry, and with your tears 
Moist it again, and frame some feeling line 
That may discover such integrity: 
For Orpheus' lute was strung with poets' sinews, 
Whose golden touch could soften steel and stones, 
Make tigers tame and huge leviathans 
Forsake unsounded deeps to dance on sands. 
After your dire-lamenting elegies, 
Visit by night your lady's chamber-window 
With some sweet concert; to their instruments 
Tune a deploring dump: the night's dead silence 
Will well become such sweet-complaining grievance. 
This, or else nothing, will inherit her.


(その手紙の中で)彼女の美の祭壇に
君の涙と、ため息と、心とを捧げます、と言うのだ。
インクが乾くまで書いたら、君の涙で、
それをもう一度濡らすのだ。
そのような誠意が伝わるように文章を組み立てるのだ。
オルフェウスのリュートは、詩人の腱を弦にしたもの。
その黄金の調べは鉄や石を柔らかくし、
虎を手なずけ、巨鯨リヴァイアサンを
底知れぬ海から出て砂の上で躍らせたという。

君は、哀しみの詩を書き送ったあと、
甘美な調べを奏する楽師たちと共に、
夜毎、彼女の窓辺を訪ねるがいい。その楽器に合わせて、
嘆きの歌を歌うのだ。夜の静寂は
そのような甘い嘆きの歌にぴったりだ。
これが、他でもなくこれこそが、彼女を手に入れる方法なのだ。


      ***

先の詩では、植物や海などの自然を思いのままに動かし、
この詩では、鉄や石などの鉱物を溶かす力をもち、
虎や想像上のクジラまで手なずけるとは、
オルフェウスは、もはや超能力者ですね。


「オルフェウスのリュートは」部分、小田島雄志氏は
「オルフェウスの竪琴は詩人の神経を弦にしたもの」と訳されていています。

「リュートは詩人の神経を弦にしたもの」・・・キャッチコピーになりそうです。

リュートの弦が多くなればなるほど、図太い神経から繊細な神経まで
持ち合わせないといけませんね。
多分そういう意味ではないと思いますが、リュート奏者はいろいろ考えてしまう。


ここでは、sinewsを 通常の「腱」とそのまま訳し、
「腱」と「弦」のもつ糸状のイメージや語感の響きを合わせてみるのもよいかと考え、
以上のように訳してみました。


後半部分をみると、恋人のバルコニーの下でリュートを弾きながら歌うという、
一般によく知られたリュートのイメージの原点がここにあることに気がつきます。


参考にした本は、以下の通り。


ヘンリー八世 (白水Uブックス (37))

ヘンリー八世 (白水Uブックス (37))

  • 作者: ウィリアム・シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 1983/10/01
  • メディア: 新書










ヴェローナの二紳士 (白水Uブックス (8))

ヴェローナの二紳士 (白水Uブックス (8))

  • 作者: ウィリアム・シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 1983/10/01
  • メディア: 新書








*サイコパスといわれるヘンリー八世。血みどろの人生です。



ヘンリー八世の六人の妃

ヘンリー八世の六人の妃

  • 作者: アントーニア フレイザー
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 1999/08
  • メディア: 単行本









王妃の闘い―ヘンリー八世と六人の妻たち

王妃の闘い―ヘンリー八世と六人の妻たち

  • 作者: ダイクストラ 好子
  • 出版社/メーカー: 未知谷
  • 発売日: 2001/05
  • メディア: 単行本













nice!(0) 
共通テーマ:

ガット弦の製造過程(17-18世紀イギリス) [愛しのリュート達]


IMG_3871.JPG

本日は、読書メモです。

図説「最悪」の仕事の歴史(トニー・ロビンソン/著、日暮雅通・林啓恵/訳)原書房


以前から、ルネサンス時代〜バロック時代にリュートや弦がどれくらいの価格だったか、
手紙などを調べて比較して考えているのですが、
ふと「そもそも弦の長さの単位が現代とは違うんじゃないか」と思い当たりました。


つまり、ガリレオが「リュート弦1束」という時、
それは私たちが想像する小分け分包されたものとは、長さが違うのではないかと。

それに、一頭の羊さんから何メートルのガット弦が取れるんだろう?という疑問も。

過去のブログ記事【ガット残酷物語】

過去のブログ記事【草食動物?肉食動物?】



その場面を想像しただけでも、怖いよぉ・・・という感じなのですが、
勇気を振り絞って読んでみました。


イギリス・スチュアート朝時代の「最悪の仕事」として、短いですが、
「ヴァイオリンの弦づくり」の項目があります。
以下、グロ注意ですが、製造過程について簡単に。

・弦づくり職人は、原料として殺したての羊を入手する必要があるため、食肉処理場の近くに住むことが多い。
・ヴァイオリン弦の原料になるのは、羊の下のほうの腸で、長さは30メートルぐらい。
・傷をつけないように細心の注意で、腸をはずす。
・腸の中身を桶にあけて、脂肪質の組織、筋肉、血管を残らず手でこそげ落とし綺麗にする。
(この「愉快な作業(!)」は、家族のうち息子や娘の仕事。>弦づくりは家族一丸となって作業する)
・木材を焼いた灰を溶かした中に浸し、その液を定期的に交換しながら、一週間ほど置く。

これで原料がすっかりきれいに。

・腸の幅が広くて高値がつく部分は、ソーセージの皮にするために回す。
・細い部分は裂いて繊維状にする。
・さまざまな太さに束ねる。
・それぞれの端をフックに取り付け、繰り返し回転させて繊維を撚り合せる。
・弦を乾燥させる。


弦になるのは、ソーセージの皮にする分を取り分けた残りの部分なんですね・・・。

一頭の羊から30メートルの腸が取れるって、本当かしら?
この資料の信ぴょう性、大丈夫?と思って調べたら、本当でした。
(ソーセージ関係の文書を調べた)

すごいな、羊。



ヨーロッパの貨幣価値と物価の面からアプローチする手もあるのですが、
東洋圏についての検討も(個人的な理由で)必要なので、
あえて「羊方面」(=羊肉食文化)からアプローチしています。





とりあえず、今日はここまで。



図説「最悪」の仕事の歴史

図説「最悪」の仕事の歴史

  • 作者: トニー・ロビンソン
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2007/09/21
  • メディア: 単行本


ガリレオの娘 ― 科学と信仰と愛についての父への手紙

ガリレオの娘 ― 科学と信仰と愛についての父への手紙

  • 作者: デーヴァ・ソベル
  • 出版社/メーカー: DHC
  • 発売日: 2002/01/31
  • メディア: 単行本








ガリレオ―庇護者たちの網のなかで (中公新書)

ガリレオ―庇護者たちの網のなかで (中公新書)

  • 作者: 田中 一郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1995/06
  • メディア: 新書




nice!(0) 
共通テーマ:音楽

リュートカレンダー6月の絵 [愛しのリュート達]


Crespi,_Giuseppe_Maria_-_Frau_spielt_Laute.jpg

6月のリュートカレンダーの絵は、先月に続き、
「リュートを弾く女性のうなじは美しい」シリーズ・第二弾!。

ジュセッペ・マリア・クレスピの【リュートを弾く女性】
 Giuseppe Maria Crespi(1665-1747) “Woman playing a lute” です。


生没年を見ると、このリュートカレンダーシリーズでは、最も遅い生まれ、
バロック時代後期に位置するイタリア・ボローニャ派の画家です。

経歴を見ると、それなりに貴族やローマ教皇の寵愛を受けて活躍していたことがわかるのですが、
何よりユニークなのは、この人のファッションセンス!

黒っぽいぴっちりとした、スペイン風の服装を好んでいたことから、
「Lo Spagnuolo=スペイン人」というニックネームが残されています。
リュートカレンダーでいうと2月の絵の男性みたいな服装か。これ100年前・・・)

例えば、J.S.バッハが1685年-1750年、ルイ14世が1638年-1715年と、やや近い時代で、
彼らの肖像画から想像されるのは、もっとチャラチャラ、ひらひら、頭はもふもふで、
柔らかく明るい色調の服装。
そんな中で、堅苦しいフォルムの黒服好みとは クレスピさん、
かなりユニークなファッションセンスの持ち主と言えるでしょう。

ここで、本人の自画像を。(1700年頃。35歳ごろ)

Crespi,_Giuseppe_Maria_--_Self-Portrait_-_c._1700-transparent.png

確かに黒っぽい服装、そして強い光がおデコに当たって、光と影の対比をなし、
とってもバロックらしい肖像ですね。

私には、ねじりハチマキ(!)して、左手でリュートの運指を確認しつつ、
タブラチュア書いているようにしか見えませんが・・・。(幻覚)

        * * *

さて、絵を見ていくことにしましょう。

lute.jpeg

17世紀後半〜18世紀という時代、ボディの大きさ、トレブルライダー有り(バスライダー無)、
ということなどを考え合わせると、11コースのバロックリュートでしょう。

不鮮明で弦の数は正確には数えられず、ペグの数は11コースにしては少なく見えますが不明。
正面からの絵ではないので、細身のボローニャタイプとも断言できず。


このクレスピさんは、生涯イタリア内(ほとんどボローニャ)で活動した人であるにもかかわらず、
イタリアでバロックリュートが描かれていること自体が、興味深いと言えるでしょう。

イタリアでは この時代、アーチリュートやテオルボなど長い棹(バス)をもつリュートが
中心になっており、絵画で登場するのもそのタイプが多いからです。

テーブルの上に、ペグボックスの先と、リュートのボディの端を乗せて固定し、
調弦をしているところのようです。




この絵の最大の特徴は、リュートケースが大きく描かれている点です。

閉めた時に隙間ができないように 内側に一段高くした部分があったり、
蓋をパチンと閉じる金属部分などの細部がよく見えるように描かれています。

lutecase.jpg

現代のリュートケースは、このように横に蝶番があって、横開きになる仕様ですが、

IMGP0090.jpg


昔のは、ボディを横切るように蝶番があり、縦に開く仕様でした。

例として、ルネサンス時代(1550年頃)の絵「Concert of women」の女性たちの背後、
壁にぶら下げてあるリュートケースにご注目ください。

concert.jpg

concert-lutecase.jpg

蓋が蝶番部分から下へ開いている状態でぶら下げてあり、
蓋の裏面に横方向へ補強がなされているのがよくわかります。
(この時代のリュートは小型でケースも軽く作られており、壁かけできたと推測されます)

今回のクレスピさんの絵のリュートは大きいので、壁掛けにはできそうになく、
全体の構造ももっとがっしりしています。


現代でも、この歴史的仕様のケースを作っている方もいらっしゃって、
わかりやすい写真が掲載されているので、ご覧ください。
博物館所蔵の歴史的なリュートケースの写真もあります(装飾が美しい)。



                * * *

クレスピのリュート(とリュートケース)が登場する別の作品を。

fulvio_g.jpg

「Fulvio Grati 伯爵の肖像」(1700-1720年頃)

右の楽譜を持っている男性は・・・少年? それとも妖精かな?(笑)
遠近感と人物の大きさの関係がよくわからないのですが、それは脇に置いておいて。

画面左端にリュートケースがあり、開いた状態がよくわかります。
先端部分の形状も先の作品とは少し違います。
楽譜が突っ込んであったりして、微笑ましい。

lutecase2.jpg

fulviolute.jpg

こちらのリュートは 大きさやペグの数、表面板の形から8コースルネサンスに見えますが、
どうでしょうか。
リボンをストラップにしていて、必ずしもテーブルにリュートを預ける形でばかりで
演奏していたわけではないこともわかります。

テーブルの方へ伸ばした手には、マンドリーノかソプラノリュートを持っています。


もう一点。「リュートを弾く若者」

youngman.jpg

暗い色彩で何がなんだか・・・。もはや、左手の親指の位置はよし!・・としか・・・。
ボディは大きめながら、トレブルライダーはなく、ペグの数からもルネサンスリュートに見えます。



次に、風俗画としてちょっとユニークな作品「本箱」(1725年頃)。
当時、ボローニャの有名な音楽学者・音楽批評家だったマルティーニからの委嘱作品。

bookshel.jpg

「ちょっと参照して本の間に突っ込んだ」風情の紙切れ、ペンの羽軸の予備、
楽譜や本などが(埃と共に)詳細に描写されています。本のタイトルは読めるほどです。
この絵が壁にかけてあったら、本物の本箱があるように錯覚しそう、という
一種のだまし絵のような作品。


          * * *

風俗画家としてだけでなく、宗教画、肖像画、風刺画など幅広い表現方法を持っている画家で、
今回取り上げた作品は、その芸風のごく一部でしかありません。
マイナーな画家で、あまり作品を多く見つけることができませんが、
Youtubeにその作品をまとめた動画がありましたので、ご覧ください。

バラの花や天使や女性たちが空を舞う、ゆるふわバロックな天井画や、
ロバなどの小動物や子供の表情がユーモラスなエッチング、
宗教や神話をテーマにした作品群などを見ることができます。
26分の動画ですので、お時間のあるときにゆっくりどうぞ。





【今月のおすすめCD】
ザンボーニのソナタ集(ルチアー二・コンティーニ氏または野入志津子さん演奏)を
おすすめしたかったのですが、すでにどれも販売終了の模様。

** 追記です!**

◉コンティーニ氏のザンボーニのソナタ集、AmazonでのCDの取り扱いはないようですが、
iTune Storeからのデータ購入が可能です。  

Apple Musicにも入っているようなので、契約している方は是非。


◉Miguel de Olaso氏演奏の比較的新しい録音で、Giovanni Zamboni Romano  もあります。
これは、曲目登録に何かミスがあった模様で、作曲家名がヴァイスと表記されますが、ザンボーニのソナタ集です。
複弦のアーチリュートで弾いているところが、上記2作との違いで、
それぞれの音色を聴き比べてみるのも良いでしょう。





イタリアバロックもので、リュートが活躍するのは、もうこれしかないでしょう。名曲です。


Vivaldi: Complete Works for Italian Lute/ヴィヴァルディ:四季イタリア・リュートのための作品全集 [Import]

Vivaldi: Complete Works for Italian Lute/ヴィヴァルディ:四季イタリア・リュートのための作品全集 [Import]

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Bis (Swe)
  • 発売日: 1988/03/01
  • メディア: CD













ヴィヴァルディ:リュート&マンドリンのための協奏曲集

ヴィヴァルディ:リュート&マンドリンのための協奏曲集

  • アーティスト: イル・ジャルディーノ・アルモニコ,ヴィヴァルディ,オノフリ(エンリコ),ピアンカ(ルーカ),ガルフェッティ(ドゥイリオ),ムジー(レオナルド),ポール(ウルフガング),メラティ(ジョルジオ),ルッソ(エレナ),ビアンキ(マルコ),ロナルディ(マッシモ)
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2015/03/11
  • メディア: CD




nice!(0) 
共通テーマ:アート

リュートカレンダー5月の絵 [愛しのリュート達]


Orazio Gentilesch.jpg


五月の連休も終盤となりました。いかがお過ごしでしたか?

さて、今月のリュートカレンダーの絵をご紹介しましょう。


オラツィオ・ロミ・ジェンティレスキの【リュートを弾く娘】。
Orazio Lomi Gentileschi (1563-1639) “The lute player” (1615年頃の作品)

イタリアのピサの生まれ、ちょうど同じ頃、同地でガリレオ・ガリレイが生まれています。


どんな風貌の人かというと、アンソニー・ヴァン・ダイクによる肖像画がこちら。

Orazio_Gentileschi_by_Anthony_van_Dyck_ca._1635.jpg

簡単に経歴と特徴をまとめると・・・
1)イタリアのバロック期の画家であり、カラヴァッジョ派(カラジヴァッジェスキ)の代表的な一人。
3)フランスのマリー・ド・メディシス、イギリスのチャールズ1世の宮廷画家として活躍。

詳しい経歴を知りたい方は wikipediaのこちらをどうぞ。


1)のカラヴァッジョ派の画家、という点については、
この春、東京で開催されている「カラヴァッジョ展」に、彼の別の作品が出展されていたことからも 
周知された感があります。

カラヴァッジョの暴力事件に関する裁判で証人になり、その数年後には、
2)の娘のレイプ事件の裁判があったりして、お父さんも心の傷を負い、町に居づらくなってきます。

そこでオラツィオは、イタリアの外で仕事を取ろう!という作戦に出ます。
もともと、カラヴァッジョが殺人事件を起こして逃亡したのち、
そのパトロンの注文を引き継いだくらいの絵の実力はあったし、
カラヴァッジョと違って、集団での制作活動もこなせるコミュ力高い人!

その結果が、3)のフランス、イギリスの宮廷画家ということになります。
その画風は、次第に柔らかく装飾的になり、貴族たちにも 大受け!


人生、何がきっかけとなって幸運を呼び寄せるか、わからないものですな・・・。

ちなみに、オラツィオがイギリスに移住した同年に、ダウランドが亡くなっています。
惜しい! ニアミス。


                ***


さてさて、本題の作品を。

まずは、リュートの細部を見てみましょう。

リュートの表面板が後ろ向きになっていて弦が見えないので、
ペグの数からコース(弦の数)を判定することに。(少し彩度を上げました)

Orazio_Gentil-peg.jpg

ペグは19個並んでいるので、これは紛れもなく、10コースのルネサンス・リュート。
1615年頃に描かれているので、時代もぴったり。
1コースは、単弦。



この絵の一番面白いところは、フレットの巻き方です!

Orazio_Gentile-frets.jpg

うっ、見ただけで痛いよ・・・。
左親指がモロにあたる位置に、フレットの結び目が作ってあります。
フレットの結び目部分はトゲトゲしていて、この上に親指が来てしまうと、
それが指に突き刺さり、痛くて弦を押さえるどころではありません。

通常は、棹の最も上の部分、ほとんど指板の表面と棹の境目に近い部分に結び目を作ります。
ただ、貧乏くさい話ですが、擦り減ってきたフレットを節約するために、
半回転させて再利用することがあり、その際この絵のような状態になります。

その時「節約」と「痛み」をどっちを取るか、という厳しい選択を迫られているのですよ。
(誰もそんな私の心中など知らんだろうけど)

こんなところにフレットがあって痛くないのか?と 不思議ではありますが、
こういうフレットは 他で見ることがなく、とても興味深いです。

ちなみに、このフレットはダブルではなく、シングルで張られていますね。



次に、テーブルの上を見てみましょう。

o-ggentile.instruments.jpg

ヴァイオリンがまず目に入ります。
弓がその下敷きになっているのですが、これは大丈夫なのでしょうか?(ちょっと心配・・・)

ヴァイオリンの左右に、二本の管楽器。
どちらも穴の側をこちらに向けていて、全貌が不明なこともあって、
専門外の私には具体的な名前がわかりません。

右の方は少しラッパ状に開いた形状ですが、これは ショームでしょうか?

charme.jpg

左はツィンク?  円筒形でなく、少し角っとしているように見えるし、皮を巻いてあるような。

tink.jpg


二冊の楽譜が開いて置いてありますが、タブラチュアではなく五線譜。

score2.jpg

score1.jpg

曲を特定するところまではいきませんが、読めるんじゃないか、と思うほどに、
細かく書いてあります。




この時代の風俗画は、これらの小道具にも アレゴリー(寓意)を読み取って解釈するわけで、
いろいろな記述を読みました。

例えば、真剣に耳を澄ましている様子が「聴覚」を表している、とか、
リュートの弦を奏でている姿が ギリシャの女神「ハルモニア」(調和)を示している、とか。

そんな小難しいことは、私はどうでもいいわ。知りたいのはただ一つ。

【この娘は 耳をこんなにリュートにくっつけて、いったい何をしているの?】です。

Orazio_Gentileschi_part.jpg

調弦するでもなく、弾いているにしても姿勢が変。


それで、この通りに10コースリュートをテーブルに置きつつ支え(これはよくある持ち方)、
テーブルの上から楽譜を半分垂らし・・・と、実際にやってみることにしました。

このように楽器を保持すると、思いの外、左腕とテーブルの間にはスペースがあります。
そして、その姿勢でテーブルの上の楽譜を見ようとすると、まさにこのポーズになるのです。

リュートを持っている人は、やってみるといいですよ。


あとは黄色のジャンパースカートを着て、うなじを見せれば、もう完璧!





そして、この作品のリュート以外の見所は、ジャンパースカートの「紐」だと思う。

ファスナーというものがなかった時代は、ドレスを脱ぎ着するために紐をクロスしながら
(今の靴紐のように)閉じていたわけですが、これは結構、面倒くさい。
後ろにあるから、手がつりそうになる。
身分の高い人なら女官が手伝ってくれるものの、一般人はどうしていたのか。

これが長い間、疑問だったのです。

o-gentile-dress.jpg

後ろ中心ではなく やや脇よりにあり、しかも完全にクロスさせてはいない。
これなら自分一人でも着脱できそう。

一方通行のみの紐通しなので、紐の長さが余っている。その紐を辿って・・・。

Orazio_Gentileschii-code.jpg

紐の先端部分を見ると、ほつれ止めなのか 穴に通しやすくするためか、
何かによって補強されているのがわかります。

ちょうど今の私たちが、セロハンテープでそうするように。


リュートのフレットの結び目の位置や、こんなドレスの紐の先とか、
(おそらく私以外の人にとってはどうでもいいことを)
いちいちリアルに描き込んでいるのを見ると「ああ、やっぱりカラヴァッジョ派だなあ」と納得した次第。


長くなりました。最後まで読んでくださって、どうもありがとうございました!





【今月のCD】


ジャケットはカラヴァッジョの作品。
内容は、ちょうどオラツィオ・ジェンティレスキと同時代のイタリア、そして移住したイギリスの、
その頃のリュート曲が収められています。
リンク先で、一部分の視聴ができます。



イギリス・イタリア・リュート作品集 [Import](Lindberg:Virtuoso Lute Music from Italy & England)

イギリス・イタリア・リュート作品集 [Import](Lindberg:Virtuoso Lute Music from Italy & England)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Bis
  • 発売日: 1988/03/01
  • メディア: CD



この作品をジェケットに使用しているCD。
やや珍しい内容で、あのカッチーニの娘、フランチェスカ・カッチーニの作品を収めています。


カッチーニ:宗教曲と世俗歌曲集 (Caccini: Maria, dolce Maria)

カッチーニ:宗教曲と世俗歌曲集 (Caccini: Maria, dolce Maria)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: BRILLIANT CLASSICS
  • 発売日: 2013/03/01
  • メディア: CD









有名なシチリアーナ(これもちょうど同時代)やイギリスものを収録したミニアルバム。
初めてリュートを聴く方にもオススメ。




シチリアーナ~リュートのためのアリア

シチリアーナ~リュートのためのアリア

  • アーティスト: つのだたかし,つのだたかし,小川和隆
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 1999/12/01
  • メディア: CD



nice!(0) 
共通テーマ:アート

リュートカレンダー4月の絵 [愛しのリュート達]


vermeer_lute00.jpg

おっと、桜を見に行ったりしていたら、
リュートカレンダーについての記事が遅れてしまいました。

早速、4月の絵を見ていきましょう。

フェルメールの【窓辺でリュートを調弦する女
Johannes Vermeer(1632-1675) "Woman with a lute near a window"

リュートを描いた絵の中では、最も広く知られている作品といっても良いでしょう。

一つお断りしなくてはなりませんが、
カレンダーではこの絵の上下部分をトリミングしています。
横長サイズのカレンダーに対して、このまま掲載すると
あまりに人物とリュートが小さくなってしまうためです。

上記が作品の全体像になります。
保存状態が良くないこともあって、リュートの細部は判別できません。

ボディの形や、トレブルライダーの様子などから、10コースのルネサンスリュートを
11コースのバロックリュートに改造したリュートかと推測されます。


left-hand-close-up.jpg

right-hand-close-up.jpg

3コースあたりを調弦しているところかなーぐらいしかわかりません。
ロゼッタのデザインも不明瞭な状態です。


リュートを調弦しながら、窓の外に目をやる女性。
一緒にアンサンブルをする相手の到着を心待ちにしているところかもしれません。
というのも(トリミングしてしまった)画面の下、最も手前の床の上に、
ヴィオラ・ダ・ガンバが描かれているからです。

色合いが暗くて分かりにくいので、少し明るくしてみます。

close-up-viol.jpg

テーブルクロスの下、 ↑ ここです。

テーブルの上には楽譜も数冊用意されていますね。


では、楽器が登場する他の作品を。
この中にいくつ楽器を見つけられますか?

【合奏】"The concert" (盗難に遭い、行方不明中)

Vermeer_The_concert-1.JPG


答えは、5つ。

左から、テーブルの上にシターン。(1)

cittern-on-table.jpg

床の上に、ヴィオラ・ダ・ガンバ。(2)

gamba-on-floor.jpg

女性が奏でているクラヴサン(チェンバロ)。(3)

そして、後ろ向きの男性がリュートを弾いています!(4)

肩越しに、曲がった棹が見えていて、かろうじて、リュートだと判別できます。
「もしもし、リュート奏者さん」と振り向かせたい!

lute-tunogata.jpg

ペグボックスが双頭になっているタイプのリュート、
例えば、次のヘラルド・テル・ボルフの作品に描かれているようなタイプの
リュートのようにも見えます。

double-pegbox.jpg

この時期のオランダ絵画にはこのタイプのリュートが多く見られます。
ルネサンスリュートにそのまま、バス弦部分を付け足したような形で、
ルネサンスからバロックへの過渡期的なリュートと言っても良いでしょう。



【合奏】に戻って・・・。
右端の女性は、歌を歌っているようですが、楽器にはカウントしません。
あと一つの楽器は?

壁に掛かっている絵画(右)にご注目。リュートが描かれています。(5)
わかりにくいですけど。

Vermeer_The_concert-1.JPG


これは、フェルメールの義母が所有していた、バビューレン作【取り持ち女】(模造品)で、
こんな作品。模造品が販売されるくらいなので、当時人気があったのでしょう。

300px-The_Procuress.jpg

この絵は他のフェルメール作品【ヴァージナルの前に座る女】の背後にも
描かれています。



「取り持ち女」とは、売春婦と客との仲立ちをする女性のことで、
この絵に影響されて、フェルメール自身も同じテーマで作品を残しています。

フェルメール作【取り持ち女】

919px-Jan_Vermeer_van_Delft_002.jpg

左端の黒い衣装の男性が、フェルメール自身との説もあり(かわいいじゃないか!)
その左手にはグラス、そして右手に持っているのは、もしや リュートでは!?。

双頭タイプのバロックか、と思わず身を乗り出してしまいましたが、
もしかしたら、シターンかも。

シターンが登場する昨品【恋文】↓ と比較してみる。

Vermeer,_Johannes_-_The_Loveletter.jpg

(上)シターンのペグボックス部分を拡大。(下)フェルメールが持っている楽器(横向きに回転)

Vermeer,_Johannes_-_The_Loveletter-1.jpg  
Jan_Vermeer_van_Delft_002.jpg

先端部分に、飾りの彫刻みたいなのが付いているようにも見えるから、
やっぱりシターンかな。どうでしょう。
ああ、そのテーブルクロスをめくってみたい!


【恋文】が出てきたついでに、シターンについても書いておきます。
この楽器、正面から見るとリュートに似ているので、よく混同されます。

別の作品【紳士とワインを飲む女】にも登場、椅子の上に置かれています。

800px-Jan_Vermeer_van_Delft_018.jpg

側面〜背面からの形がよくわかりますが、リュートのボディの膨らみはなく、
こんなに薄べったい楽器なのです。

cittern.jpg




次に「ちょっと惜しかったなあ」という作品について。

【真珠の首飾りの少女】
X線で調査したところ、制作過程で椅子の上にリュートが描かれた跡があることが
分かっているそうです。(壁に地図もあった)

250px-Jan_Vermeer_van_Delft_008.jpg

全体に光が差していて明るい作品ですし、
もしかしたら他の作品よりも明瞭な形でリュートが描かれたかもしれない。
そう考えると、絵全体の良し悪しはともかく「描いて欲しかったなあ」と思いますねぇ。


                ***


さて、フェルメールの全作品、33〜36点(学者によって意見が違う)のうち、
楽器が登場しているものは、13点あります。
約3分の1の作品に何らかの楽器が登場していることになります。

一覧にしてみると。

「リュートを調弦する女」(リュート、ヴィオラ・ダ・ガンバ)
「合奏」(リュート、シターン、ヴィオラ・ダ・ガンバ、クラヴサン)
「ギターを弾く女」(バロックギター)
「中断された音楽の稽古」(シターン)
「紳士とワインを飲む女」(シターン)
「恋文」(シターン)
「取り持ち女」(シターン?or リュート?)
「ヴァージナルの前に立つ女」(ヴァージナル)
「ヴァージナルの前に座る女」(ヴァージナル)
「ヴァージナルの前に座る若い女」(ヴァージナル)
「音楽の稽古」(ヴァージナル、ヴィオラ・ダ・ガンバ)
「絵画芸術」(トランペット)
「フルートを持つ女」(リコーダー)


フェルメール全作品はこちらで見ることができます。フェルメールの作品
大まかな時代別に並んでおり、画像をクリックすると、高画質で見ることができます。

フェルメールに限らず、この時代の作品は、小道具、登場人物、作中画、構図など、
あらゆる要素に「寓意」「象徴」が盛り込まれています。
例えば「音楽のレッスン」は「恋愛の駆け引き」「誘惑」などを暗示する、という具合に、
日常生活の一シーンを描いているようで、実は「ストーリー」や「教訓」が
示されていたりします。

そのあたりの解釈は上記のサイトにも簡単に説明されており、
近年の日本でのフェルメール人気もあって、数多くの書籍も出版されていますので、
興味のある方は、ぜひそちらもご覧いただけたら、と思います。

そういう脈絡では「楽器」は「愛と調和」を意味する小道具として、
または記号として描かれるわけですが、
私たちは そこから立ち上がる音や弦の響きを聴こうとすることに抗うことができません。

作品全体を包み込む光の粒の間を縫うように 弦の振動が音の波動となって広がり、
やがて様々な色合いへと変化していく、その移り変わりを皮膚で感じては、
この上もない快楽に身を委ねてしまうのです。

カレンダーに取り上げた作品は、リュートが不明瞭な形でしか描かれていませんが、
とても魅力的な作品と思えるのは、そのようなところに理由があるのかもしれません。



【おすすめCD】

ガット弦が好きな方に是非。リュート/アンソニー・ベイルズ


オランダのリュート作品集 (Lute Music of the Netherlands)

オランダのリュート作品集 (Lute Music of the Netherlands)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Carpe Diem
  • 発売日: 2012/11/21
  • メディア: CD



日本人の演奏家によるアンサンブルで!高音質による再販CD。



「オランダバロックの愉悦」 バロック時代のオランダの作曲家達による器楽作品集

「オランダバロックの愉悦」 バロック時代のオランダの作曲家達による器楽作品集

  • アーティスト: バロック時代のオランダの作曲家達,本村睦幸 (リコーダー),櫻田亨 (リュート、テオルボ、バロックギター),上尾直毅 (チェンバロ、オルガン、ミュウゼット、打楽器)
  • 出版社/メーカー: WAON RECORDS
  • 発売日: 2009/12/02
  • メディア: CD




フェルメール その時代の音楽

フェルメール その時代の音楽

  • アーティスト: バード,ゼレ,シャイデマン,クープラン,ナウヴァッハ,ロウズ,シャルパンティエ,ブクステフーデ,エルヴェ・ニケ,ジェレミー・サマリー,オックスフォード・カメラータ,マルティン・フンメル,カール・エルンスト・シュレイダー,グレン・ウィルソン
  • 出版社/メーカー: Naxos
  • 発売日: 2005/03/01
  • メディア: CD



【書籍】


謎解き フェルメール (とんぼの本)

謎解き フェルメール (とんぼの本)

  • 作者: 小林 頼子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/06
  • メディア: 単行本




フェルメールの作品中に描かれている料理のレシピ集。

フェルメールの食卓 暮らしとレシピ (講談社ARTピース)

フェルメールの食卓 暮らしとレシピ (講談社ARTピース)

  • 作者: 林 綾野
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/07/16
  • メディア: 単行本

この本についてはブログで書いています。こちらもどうぞご覧ください。
過去ブログ記事:フェルメールの食卓




nice!(0) 
共通テーマ:アート

【補足】リュートカレンダー3月の絵〜プロメーテウスの神話〜 [愛しのリュート達]


Prometheus.jpg

リュートカレンダーの3月の絵について、補足記事です。

カラヴァッジョ派の画家、テオドール・ロンバウツの作品のうち、
最も『カラヴァッジョっぽい』作品はこれではないかと思います。
リュートと関係ないので、前記事では言及しませんでしたが。


「Prometheus」プロメーテウス

ギリシャ神話「プロメーテウス」を主題とした作品で、
生きながらにしてハゲタカに肝臓を突っつかれるという責め苦を負わされているシーン。

ドラマティックな構図、強い光に照らされて浮かび上がる白い肌、
暗い背景とのコントラスト、苦痛にゆがんだ表情、生々しい皮膚感など、
風俗画よりも よりバロックらしい特徴が見られます。




ふと思いついて、この男性(モデル)の顔の部分を切り取り、
上下逆さまにしてみると。

1024px-Prométhée.JPG


どこかで見たような。

Theodoor_Rombouts_-_Joueur_de_luth.jpg

並べてみると。

1024px-Prométhée.JPG Theodoor_Rombouts_-_Joueur_de_luth のコピー.jpg

眉の濃さとか、おでこのシワなどが、似てる。

リュートを調弦するのは、ハゲタカにお腹を突っつかれるほど
大変なことではありませんがね。


ギリシャ神話のプロメーテウスのあらすじを是非ご一読いただければと思います。

自然の脅威、人間と神との関わり、科学技術についてなど
思索を深めるヒントが見つかるかもしれません。


nice!(0) 
共通テーマ:アート

リュートカレンダー3月の絵 [愛しのリュート達]


Theodoor_Rombouts_-_Joueur_de_luth.jpg


お雛祭りも過ぎ、少しづつ春の訪れを感じる頃となりました。

それでは、リュートカレンダー3月の絵、
Theodoor Rombouts テオドール・ロンバウツ作〝The Lute Player”(リュート奏者)を
紹介していきましょう。


◎テオドール・ロンバウツは、カラヴァッジョ派の風俗画家で、
1597年フランドル(現在のオランダ〜フランス〜ベルギーあたり)のアントワープ生まれ。
1616年から25年までローマに滞在したのち、1625年に帰郷。27年に結婚。

その頃、故郷フランドルでは カラヴァッジョ派が大いに持てはやされていたため、
ローマ帰りのテオドールは 大成功! アントワープのギルド(職人組合)の親方となります。

その後、ルーベンスをリーダーとした長期にわたるプロジェクトに参加したのち、
1637年に 40歳で死去。晩年は、カラヴァッジョとルーベンスと、
どっちにしようか・・・と迷っているような(?!)作風となります。


◎今回の「リュート奏者」という作品は、1620年ローマ滞在の頃の作品。

カラヴァッジョのリュート奏者を描いた作品(カレンダーの9月を参照)や、
それに連なるカラヴァッジョ派の画家マンフレディのリュート奏者の肖像画(同、11月を参照)に
触発されて描かれたと考えられます。

カラヴァッジョとその流派の特徴としては、
光と影の強いコントラスト、生々しいまでの写実、ドラマティックな構図などが挙げられますが、
この作品においては、白く光が反射した両手、リュートや小物の描写にその特徴がよく表れています。

テーブルの上にあるのは、蓋付きの素焼きのジョッキとパイプ。

Theodoor_Rombouts_-_Joueur_de_luth-2.jpg

最初、スタバのタンブラー?と思ったのですが、考えてみたらこれが原型ですよね。

パイプでの喫煙という習慣もこの頃から始まります。
左にある紐のようなものは 火種でしょうか。

ビール飲んだりタバコ吸ったりしながら、これからのんびりリュートの練習ですか、と
思っていたら、ところがどっこい、絵描きの考えることは全然違った!

「弦が張ってある楽器は〝節制〟を象徴し、それを調弦するのに苦心している様子であれば、
愛と折り合いをつけることに もがいていることを示す。
この絵のように、蓋付きのジョッキやパイプが一緒に描かれている場合は、
より〝自制〟ということを強調している。」のだそうです。(ホントですか、これは)

眉間のシワは「あー全然、音あわないな、面倒くさいぜ。」かと思いきや、
そんな恋の悩みを抱えていらっしゃったとは。

Theodoor_Rombouts_-_Joueur_de_luth-1.jpg

リュートに注目してみると、これは紛れもなく10コースのルネサンスリュート。
写実的だから、分かりやすい。この時代の典型的なリュートと言えるでしょう。
表面板のスレて色が青くなったところも、古びた感じがよく出ています。

面白いのは、弦の張り方です。
このブリッジのところ、弦の端がぐじゃぐじゃなんですけど。↑


ペグボックスの方も、余った部分が派手にはみ出しております。↓

Theodoor_Rombouts_-_Joueur_de_luth-1 のコピー.jpg


左指の爪が短く切り揃えられていて、リュート弾きとしてのリアリティはありますね。



◎リュートが登場する他の作品を見てみましょう。

640px-Theodoor_Rombouts_-_Card_Game_-_WGA20023.jpg

「カードゲーム」(製作年/1620年代)
このリュートは、先のリュートと同じものと思われます。
カードゲーム(トランプ遊び)をする人物像は、カラヴァッジョも好んで描いたテーマです。


Theodoor_Rombouts_-_Musical_company_with_Bacchus.jpg

「バッカスと音楽の仲間たち」(製作年/1630年代)
仲良く腕を絡ませている中央の男女は、テオドール自身と妻をモデルにしていると言われています。
左端のリュート奏者は調弦をしているものの、その表情には余裕が見られるので
愛の葛藤はなく、結婚という愛の調和を象徴しているとか。


こちらのリュートは8コースのルネサンスリュート。拡大してみましょう。
フレットが斜めになっていたり、1フレットの間隔が狭かったり、
これは音程をどうこうしようという意図があるのか、雑なだけなのか、うーん。

Theodoor_Rombouts_-_Musical_company_with_Bacchus (1).jpg

次にテオルボを描いた作品を。

Theodoor_Rombouts_-_Allegory_of_the_five_senses.jpg

「五感の寓意」(製作年不詳)
左から、視覚(眼鏡)、聴覚(リュートの一種、テオルボ)、触覚(石膏像を撫でている)、
味覚(ワイングラスにお酒)、嗅覚(タバコとニンニク)を示しています。

リュートの裏側の膨らみを描くのは難しい。けど、描きたい。
そこで、この画家は二つに分けて描くという知恵を使っています。

テオルボ奏者の足元にもう一本、別のテオルボが後ろ向きに転がっています。
視覚を担当しているおじいさんが鏡を持っていて、その中にテオルボの表側が写っています。

Theodoor_Rombouts_-_Allegory_of_the_five_senses-1.jpg

最後にアーチリュートとバロックギターが登場する作品を。

Rombouts_The_Concert.jpg

「コンサート」(製作年/1620年頃)
これは、いかにもカラヴァッジョ的な光の使い方ですね。
2種の撥弦楽器の他に、トラヴェルソ、ヴァイオリンなどの器楽と、
そして中央の女性は歌手でしょうか、合奏を楽しんでいる風景のようです。
アーチリュートは机の上に置いて、奏者は中腰になって弾いているようにも見えます。



【今月のおすすめCD】
今回は、ちょうど時代が同じなので、私のCDをご紹介させていただきますね。
「ふらんすの恋歌」(ソプラノ:原雅巳/リュート:永田斉子)

1620年頃のフランスとオランダの作品より。

276616cada38fb463c75_460x460.jpeg  詳細情報とご注文は、こちらのサイトショップからどうぞ。


【こちらの記事も合わせてどうぞ】



nice!(0) 
共通テーマ:アート

なぜテオルボは生まれたのか [愛しのリュート達]


71c576c48724a4119405d908826509cb.jpg

先日、ポール・オデット氏にリュートについてあれこれとインタビューした記事が
ネットにアップされていました。

オペラのCD録音で2015年グラミー賞を受賞したというニュースに付随したものだったのですが、
「テオルボ(キタローネ)がどうして生まれたのか」について説明している部分が興味深かったので、
ざっと訳してみました。

お時間のある方は原文でどうぞ。原文のリンクはこちら




【リュートは優しい音ですが、今までに音量を大きくしようとした人はいますか?】

その歴史においてたった一度だけ、人々がリュートの音量を大きくしようとしたことがありました。

16世紀の人々は 大きな音量の音楽は 野卑で節度がなく洗練されてない音楽であると
感じていました。
会話と同じくらいの音量で演奏される音楽こそが、最も美しく洗練されていると感じていたのです。
繊細さと親密さを持っていたことが、結果として 表情豊かで意味深い音楽となり、
それゆえに、リュートはとても愛されていました。


フェルディナンド・ディ・メディチの結婚祝賀祭(註:1589年)で
リュートが伴奏楽器として使用された時、すごく面白い変化がリュートに起こりました。
この時が、人々が音量を大きくしたいと思った唯一の機会でした。
それは、1000人を収容するほど広い空間で リュートを聴こえるようにするためだったのです。


彼らは、バス・リュートの調弦をどんどん上げていきました。
一番高音の弦がすぐに切れるだろうということはわかっていましたが、それでもかまわず、
どんどん上げていきました。

彼らは、中音域と低音域に何が起きるかを知りたかったのです。
低音域の音は、ずっと明瞭になり、よく響くようになりました。
彼らは、さらに高く高く上げ続けました。ついに2番目の弦が切れました。
そして、3番目の弦が切れそうになる時、楽器が最もよく響くことを見いだしました。

彼らは、新しい調弦を創りだすよりも、むしろ単純に、
切れた1番目と2番目の弦に、通常の音高より1オクターヴ低くなるような太い弦を張りました。
そのリュートは歌の伴奏に使われていたので
(和音が変らなければ)オクターブの音の上げ下げは問題にならなかったのです。

歌手たちは、新しく何かを覚え直す必要もなく、
それまで通りのコードフォーム(指遣い)のままで、演奏をすることができたのです。
(この時、リュートは弾き語りで使用された)

しかしその結果、3番目の弦が最も高い音になりました。
このような、最も高い音が一番上の弦にあるわけではない、という不規則な弦の並びは、
リエントラント調弦と呼ばれています。

撥弦楽器にはこのような調弦のものが結構あります。
例えば、バロックギターとか。最も低い音は、下の弦ではなく真ん中あたりにあります。・・・



・・・などなど。

ここで述べられている楽器に、数年後バスの延長弦が加えられるようになり、
今でいうテオルボ/キタローネになると考えられます。

そのきっかけは、この説明を読む限り
「必要に迫られて、たった一度だけ音量増加を試みた」時に生まれた、
つまり「必要は発明の母」的な流れで生まれたわけですね。

当時の価値観からは許しがたい 勇気の要る新しい試みも、
その結婚祝典の一度きりで「やっぱりやめよ」とならず、「これ結構いいじゃん」となったわけで。・・・
瓢箪から駒。


その後のバロック時代におけるテオルボの重用ぶり、作品の充実ぶりを考えると、
時代の価値観や常識にとらわれず、何でも新しい試みをやってみるのがいいんじゃないかなあ、
と思うわけです。現代においても。


同様の情報は、ロバート・スペンサー氏のサイトにも詳しく掲載されています。
興味のある方は、こちらも合わせて是非。




nice!(0) 
共通テーマ:音楽

リュートカレンダー2月の絵 [愛しのリュート達]


Bartolomeo Passarotti.jpg

リュート・カレンダー2月の絵のご紹介です。

今月の一枚は、Bartolomeo Passarotti(1529-1592)作の
Portrait of a man playing a lute「リュートを弾く男性の肖像」。

右上の文字から、1576年の製作ということがわかりますが、
描かれている人物が誰かは、不明。

テーブルを前にして、リュートを構えている絵が多い中、
この作品は、テーブルを背にして、寛いだ様子でもたれかかっているポーズをとっている点が
珍しいと言えるでしょう。

テーブルの上の二つ折りにした紙は、表に文字列、内側に五線譜の楽譜が描かれていますが、
何が書かれているかは(拡大しても)判読不明です。

全体に、落ち着いた暗めのトーンの中、まず目をひくのが真っ白なレースの襟飾りですね。

amanplayinglute.bp.jpg

この時代の男性のお洒落アイテムでもあり、現代社会でのネクタイみたいなものでしょう。
立体的な造形と、細やかなレースの地模様まで書き込まれています。


作者、バルトロメオ・パサロッティについては、あまり情報がありません。
北イタリアのボローニャに生まれ、一時期ローマなどにも在住するものの、
生涯のほとんどをボローニャで過ごし、教会の宗教画、貴族の(男性が多い)肖像画などを残しています。


どんな人なのか、自画像はこちら。1560年頃(31歳)。

404px-Bartolomeo_Passarotti_Selfportrait.jpg

(生真面目、あるいは繊細で内向的な性格なのかしら。)


やがて、美術学校(大規模なアトリエのようなもの)を設立。
解剖学について講義している自画像。1580年代(51歳)。
Passerotti_Self-portrait.jpg

このようなペンによるデッサンが数多く残されています。
最初の肖像画より、中年になって温和な雰囲気になっていますね。


では、カレンダーに掲載した絵の中で、リュートがどんな風に描かれているか見てみましょう。

私が、一番、気になるところはこの部分。

pegbox..jpg

このペグ、どういう角度で差し込んであるんでしょう?
これでは、弦は巻けませんわ。

遠近法がどうのこうの、というより、
ここまで変だとむしろ狙っているのかと思うほど、シュールです(苦笑)。

気を取り直して・・・と。

かまぼこ型ネック、6コースのルネサンスリュート、
通常シングルに張る1コース(最高音の弦)も複弦に張っている、
フレットも、ダブルに巻いてあることがわかります。

弦が ナットにのっかっている所に光が当たってきれい。
同コース内の2本の弦は こういう間隔で張っていたんですね。

うーん、ここまで細かく描けるんだったら、ペグはどうした!?


ボディのブリッジの部分。
decoration.jpg

ブリッジの端に渦巻きの装飾がされているのがわかります。
私の6コースリュートの同部分も、これと同じデザインになっています。


IMG_3251.JPG


リュートはこちらの群像肖像画にも登場しています。
「モナルディーニ四兄弟の肖像」(製作年不明)

Bartolomeo_Passarotti,_Ritratto_dei_fratelli_Monaldini.png

今度は、リュートのボディの膨らみ部分が、ちょっと変かな・・・。(文句が多い)

リュートって描くの、難しい楽器なんですねえ。

このリュートは 先のリュートとは別のリュートで、
ペグが11本しかないので、1コースもシングルに張っているようです。

Bartolomeo_Passarotti,_Ritratto_dei_fratelli_Monaldini-1.png

同じ地域、時代、タイプのリュートでも、弦の張り方には色々あって、
一概には断定できない、ということがわかります。



さて、このバルトロメオさん、流派としては マニエリスムに分類されていますが、
エルグレコが描く人物のように「手足が長ーい!十等身?」と思うほどの強調はあまり見られません。

むしろ、ちょっと違う方向に そのマニエリスムっぽさが発揮されていきます。


passarotti-caricature-n-1592951-0.jpg

バルトロメオさん、ついに壊れてしまいました〜。

カリカチュア(諷刺画)という分野に、才能発揮! これが16世紀の作品とは(驚)。


この作風でいくと、リュートはどうなるかと言うと・・・
「リュート弾き」(製作年/不明)
Bartolomeo_Passarotti,_Villano_che_suona_il_liuto.jpg


顔の表情に目を奪われて、もはやリュートの細部はどうでもいいレベルです。
リュートとテーブルの隙間から、犬がパンをくわえて逃げようとしているし。


カリカチュアというジャンルは、このバルトロメオの弟子、アンニーバル・カラッチによって
よりエスカレートしていきます。

お仕事として、注文を受けた貴族の肖像画やら教会の壁や天井画などを描く合間に、
気晴らしとして、このようなカリカチュアを描いたらしいのですが、
それにしても、暴走しすぎ。
当時の画家でも、お仕事で絵を描くのはそれなりにストレスが溜まったんでしょうねえ。



Youtubeに 作品のスライドショーがありましたので、ご覧下さい。
この作家が一番、愛着を持って描いたのは「犬」なのかも。






【今回のおすすめCD】

ボローニャつながりで、同地出身のリュートの作曲家、ピッチニーニのアーチリュート&テオルボの作品集を。


ピッチニーニ:リュート作品集(2枚組)/Piccinini: Intavolature di Liuto et di Chitarrone

ピッチニーニ:リュート作品集(2枚組)/Piccinini: Intavolature di Liuto et di Chitarrone

  • アーティスト: ピッチニーニ,ルチアーノ・コンティーニ,フランチェスカ・トレッリ(リュート&キタローネ)
  • 出版社/メーカー: Brilliant Classics
  • 発売日: 2007/01/01
  • メディア: CD







マニエリスムつながりで、カルロ・ジェズアルトのマドリガル集(声楽アンサンブル)を。



ジェズアルド:5声のマドリガル集(全曲)

ジェズアルド:5声のマドリガル集(全曲)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Newton Classics
  • 発売日: 2012/09/19
  • メディア: CD

     

    もう一枚、ジェズアルドのマドリガル集を。こちらは一部試聴ができます。



     

    Quinto Libro Di Madrigali

    Quinto Libro Di Madrigali

    • アーティスト:
    • 出版社/メーカー: Ecm Records
    • 発売日: 2012/05/08
    • メディア: CD

     




nice!(0) 
共通テーマ:アート
前の10件 | 次の10件 愛しのリュート達 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。