「シェイクスピア時代のリュート音楽」@東京、終了 [コンサートのご報告]
9月25日コンサート満席となりました [コンサートのお知らせ]
インタヴュー記事 [プロフィール]
Q1:リュートってどんな楽器なのですか?(興味はあるけどよく知らない人向けに)
アラビア半島の民族楽器「ウード」が11世紀ごろにヨーロッパに伝わり「リュート」と呼ばれるようになりました。
その後18世紀末まで、中世〜ルネサンス〜バロックという3つの時代にわたって、
ヨーロッパのほとんどの国々の王侯貴族の宮廷で中心的役割を果たす楽器として活躍します。
宮廷楽師だけでなく、王侯貴族自身もたしなみとして演奏していました。
その間、約4万曲の作品が残されましたが、次第に人気が衰退してゆき、19世紀になると誰も演奏する人がいなくなり、一旦伝統が途絶えます。
約100年の沈黙ののち、20世紀の初めに楽器の復元と研究がなされ、今日に至っています。
Q2:リュートとの出会いはいつ、どんな状況で? またリュートを志したきっかけがあれば、是非お願いします。
クラシックギターに熱中していた13歳の時。
かつて、日本で廉価版のリュートが一時期流行ったことがありまして、ギターの先生がリュートを持っていたんです。
クラシックギターの曲の中には、リュートの作品をギター用に編曲したものが結構多く、中学生だった私は
ダウランドやバッハなど古い時代の曲ばかりを好んで(ギターで)弾いていました。
同時に、NHK-FMラジオで古楽を紹介する番組が早朝に放送されていまして、
これを聴きながら漢字の練習をするのが至福の時、という変わった中学生でした。
この番組で時々リュートの音が流れてくるのを聴いていたのもきっかけの一つです。
その後、大学で音楽学を専攻することになり、その教授が世界的なリュート音楽研究の権威であったにも関わらず、
リュートを弾く、ということにはまだ至りません。就職してお金を貯めてやっと中古のリュートを手に入れ、
会社員を辞めてアルバイトしながらレッスンに通うようになりました。
そのうちリュート奏者だった夫と一緒にフランスに留学することになるのですが、
そこでリュート音楽の奥深さに触れ、一生探求してくことになるだろう、と思いました。
Q3: 永田さんにとって、リュートの魅力とはどんなところでしょうか?
静かな音楽であること、繊細な表現ができる楽器であること。
Q4:好きな作曲家、好きな演奏家、尊敬する演奏家は?(リュートでも結構ですし、リュート以外でも)
好きな作曲家・・・フランチェスコ・ダ・ミラノFrancesco Canova da Milano(リュートのための対位法的な作品を数多く残した16世紀の作曲家です)
好きな演奏家・・・ポール・オデットPaul O’Dette (アメリカのリュート奏者です)
尊敬する演奏家・・・今村泰典氏、左近径介氏(私のリュートの師です)
Q5:10/2のアトリエミストラルでのコンサート「シェイクスピア時代のリュート音楽」の聴きどころは?
今回は、今から400年前のイギリスの作品でまとめてみました。
400年前というと、電化製品がなくすべての音楽は生演奏だった時代です。まずはその静かな音楽とリュートの音色を体験していただきたいです。
この時代は、リュート作品全体の中でも一つの最盛期を迎え芸術的に優れた作品が数多く残されています。
ダウランドは比較的よく演奏されますが、ロビンソン、ホルボーンはあまり演奏される機会がありませんので、これを機会に知ってほしいと思います。
また、当時の一般民衆の音楽と貴族の音楽の関係と、その中でメロディーがどのように伝承されていくのかを探るのが隠しテーマになっています。
その脈絡で「グリーンスリーヴズ」やサイモンとガーファンクルがカヴァーした「スカーバラ・フェア」、朝ドラで流れて有名になった「川の流れは広く」などを
再考してみようと考えています。
個々の作品については、ブログに解説記事を書いておりますので、事前にお読み頂けるとよりコンサートが楽しめると思います。
3つあります。
Q6:ご自身の活動で、これからの抱負ややってみたいことなどがあればお聞かせください。
1つ目は、これまで通りリュートを中心としたプログラムで、親密な空間でのサロンコンサートを継続すること。
特に、リュートを聴いたことがない方々のいらっしゃるところや、大都市ではない地域に気軽に出かけて行ってライブを行いたいです。
2つ目は、リュートを弾くロバの物語「ロバのおうじ」の朗読音楽会を全国展開させていくこと。
8年前から継続していますが、来年は全国の朗読関係の方々と協力しながらより活発化させていきたいと考えています。
3つ目は、リュートとは別の、もう一つの私の研究テーマである「月琴」という楽器に関する活動をより深めたいと考えています。
現在、CDを製作中です。
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こんにちは、シェイクスピアを研究している者です。こちらの論文について、バラッドについては説得力があるかなと思ったのですが、リュートについてはちょっとどうかなと思うところがありましたので、ツイートで情報提供いたします。(続) @seikolute
? saebou (@Cristoforou) 2016年8月20日
「当時の貴族は楽器を嗜んではいたものの、人前や公の場で演奏することは
? saebou (@Cristoforou) 2016年8月20日
貴族と演奏者間の主従関係を崩壊させるとしてふさわしくない行為だとされていた」というところですが、これは引用されている研究が古いのもあり、ちょっと誤解を招きやすいかなと思いました。 @seikolute
人前で貴族が演奏することをはしたないとする批判はありましたが、この批判はそういうことを実際にする人がいたから行われたものだと考えられます。また、引用元の当時の文章で強く批判されているのは頼まれもしないのに自分から演奏することや大勢の前で演奏することです。 @seikolute
? saebou (@Cristoforou) 2016年8月20日
エリザベス女王が外交官の前でリュートを弾いたとか、若い上流階級の女性が仕えている王族や外交官などのために演奏をしたという記録はあるので、貴族が人前で演奏することじたいが完全に異常だととってしまうとちょっと大げさだと思います。 @seikolute
? saebou (@Cristoforou) 2016年8月20日
ただ、髪を乱した(狂気のしるし)女性が楽器を持って入ってきて頼まれもしないというのに歌うというのは、敬意を払わなければいけない王妃の前では異常で、階級を逸脱した行為だとは思います。一方、貴族女性が人から頼まれて演奏した場合は逸脱とまではいえないと思います。 @seikolute
? saebou (@Cristoforou) 2016年8月20日
@Cristoforou おはようございます。貴重な情報を頂き、どうもありがとうございます。リュート奏者としては(貴族ではないですが)ほっとしました、笑。twitter外の方にもお知らせしたく、頂いた情報をブログに転載させて頂きたいのですが、もし問題ありましたらご一報下さいませ。
? 永田斉子 リュート奏者 (@seikolute) 2016年8月21日
はい、もちろん大丈夫です。あと、もう1点補足情報でお役に立つかもしれないかなと思うのは、少なくとも初期近代のイングランドではリュートを演奏するのはプロの音楽家でなければ多くが貴族女性です。女性向けの楽器と思われていたふしがあるようです。(続) @seikolute
? saebou (@Cristoforou) 2016年8月21日
? saebou (@Cristoforou) 2016年8月21日
ただ、リュートの技術は上流女性にとって花嫁修業の一貫、また宮廷に出仕する際の教養として重視されていたようなので、必ずしもこの「男性に色っぽい演奏を聴かせてはいけない」という教えは守られていなかったのではと私は思います。 @seikolute
横からすみません。元記事もsaebouさんのご指摘も大変興味深く拝読させていただきました。イギリスのこの時代の場合、プロのミュージシャン以外でどういう人たちが弾いていたかを調べる一次資料は手紙や回想録以外だと何になりますか?@Cristoforou @nyan_cor
— ジャスミン男 (@echinodermes) 2016年8月21日
例えばフランス18世紀で楽器がチェンバロだと手紙・回想録以外では作曲家たちの書く奏法概論(traité)や出版した楽譜の序文や献辞でどういう人たちが愛好家として弾いていたかが浮かび上がってくるのですが。@Cristoforou
— ジャスミン男 (@echinodermes) 2016年8月21日
手紙とか日記、回想録以外だと、場合によりますが絵画や財産目録・贈答品の記録、あと詩とかですかね。奏法の教科書や楽譜も場合によっては使えるとは思いますが、そっちのほうは私はあまり詳しくなく…。(続) @echinodermes
— saebou (@Cristoforou) 2016年8月21日
たとえば女性文人レディ・メアリ・ロウスがテオルボ(大型リュートみたいな楽器)と一緒に描かれた絵があるんですが、たぶん本人が弾けたことを暗示すると思います。絵に描かれたからといって必ずしも奏者だったとは限りませんが、ロウスは歌もダンスも得意だったし。 @echinodermes
— saebou (@Cristoforou) 2016年8月21日
あと、リュートは贈答品として使用されることがあったので、リュートを贈られてるとか、財産目録にいっぱいリュートがある場合は誰か家族に弾ける人がいたと想定できる場合があると思います。これも、コレクターが必ずしも弾けるとは限らないという問題がありますが… @echinodermes
— saebou (@Cristoforou) 2016年8月21日
あと、トマス・ワイアットの詩にはリュートがけっこう出てきて本人も弾けたのではないかとか、『ハムレット』や『優しさで殺された女』みたいなお芝居で女性がリュートを弾く場面があるものがありますね。 @echinodermes
— saebou (@Cristoforou) 2016年8月21日
なるほど財産目録は盲点でした。
— ジャスミン男 (@echinodermes) 2016年8月21日
鍵盤楽器だとお飾りや来客用、もしくは外から音楽家呼ぶ用で一台置く可能性も高いですが、リュートだと財産目録にいくつもあれば弾いていた可能性は高いですよね。@Cristoforou
初期近代の音楽と楽器の演奏が、当時の精神疾患の表象とどのような関係にあったのかを論じたサイト。取り上げられているのは『ハムレット』のオフィーリアです。 https://t.co/jdSpAFt1ct
— akihito suzuki (@akihito_suzuki) 2016年8月21日
@akihito_suzuki これは @FintaPazza さんからコメント欲しいですね。私も、お芝居とのかかわりでしか楽器のことはわからないので…博論を書いている時にテオルボの名手だった女性が持ってたフォリオを調査した程度で、その時に調べた知識がアップデートされておらず…
— saebou (@Cristoforou) 2016年8月21日
古楽クラスタではおなじみの先生で、特に「狂気」と音楽との関わりについて研究をされています。
お呼び頂きありがとうございます。ざっと流れだけ拝見しました。今締め切りで死んでますんで少し気が付いたことだけを。@Cristoforou @akihito_suzuki @seikolute
— まつもと(な) (@FintaPazza) 2016年8月21日
貴族とリュートついてはさえぼー先生が纏めて下さっているので触れませんがオフィーリアに関して、女優がいなかった当時少年が演じているためいわば「第3の性」として捉えられたという事も脳裏に置く必要があるかと@Cristoforou @akihito_suzuki @seikolute
— まつもと(な) (@FintaPazza) 2016年8月21日
それからオフィーリアが「歌う狂乱の女性」の先駆ではありません(その数年前にLylyが・パンドラの例あり)。オフィーリアが打ち立てたのは「狂乱=バラッドのあれこれをちょっとずつだけ歌いつなげる」です。@Cristoforou @akihito_suzuki @seikolute
— まつもと(な) (@FintaPazza) 2016年8月21日
しかしこのオフィーリアの方法論、既に伊演劇で似たような例があり。が、「数曲のバラッドを繋げる」は王政復興期パーセルらの狂乱歌の構成方法を決定する為重要ではあります(セイチェント1で触れました。宣伝w)@Cristoforou @akihito_suzuki @seikolute
— まつもと(な) (@FintaPazza) 2016年8月21日
伊の話に触れましたが伊演劇では既に女性が舞台でリュート・ギター弾き語りやってるんでその辺りの影響もだんだん出てくる時代です。@Cristoforou @akihito_suzuki @seikolute
— まつもと(な) (@FintaPazza) 2016年8月21日
最後に貴族と楽器の話に戻ると嗜みとしての楽器の習得は男も女も奨励されたがプロになっちゃいけないという感じで、貴族同士の弾き合い会はOKだったはずです。さえぼー先生おっしゃる通り。@Cristoforou @akihito_suzuki @seikolute
— まつもと(な) (@FintaPazza) 2016年8月21日
17世紀中期~後期、だんだん「中流」(に近い)層が出てくるとその層も楽器勉強しますし。(なのでマニュアル本の数が増える)@Cristoforou @akihito_suzuki @seikolute
— まつもと(な) (@FintaPazza) 2016年8月21日
ありがとうございます @FintaPazza さん!リリーはすっかり頭から抜けてました…少年俳優がオフィーリア役だったのはト書きの点からも重要かと思います。 @akihito_suzuki @seikolute
— saebou (@Cristoforou) 2016年8月21日
ジェンダー絡む話になるとオフィーリア=少年はもっと根本に来るべきですよね。1660年女優登場以降、「舞台で髪を乱した女性」=レイプ被害者か狂女、という表象になるということとも合わせて(苦笑)@Cristoforou @akihito_suzuki @seikolute
— まつもと(な) (@FintaPazza) 2016年8月21日
・・・つまりレイプも狂乱も女優の生の肉体をチラ見せするためのPretextになっていってしまうw。これは「少年」にはできない技でした(苦笑)@Cristoforou @akihito_suzuki @seikolute
— まつもと(な) (@FintaPazza) 2016年8月21日
舞台における女性の男装も17世紀後半はそうなりますねぇ。男装のほうが足がよく見えますから、プロの大人の女優が足もあらわに男装するのと少年俳優がかわいい男の子の格好をするのは違いますし。 @FintaPazza @akihito_suzuki @seikolute
— saebou (@Cristoforou) 2016年8月21日
これは完全な私の推測ですが、『ハムレット』Q1のト書きはその時の女役の役者の技術に基づいているという可能性もあるかもと思っています。早い段階の上演ではリュートがうまい子がオフィーリアをやっていて(続) @FintaPazza @akihito_suzuki @seikolute
— saebou (@Cristoforou) 2016年8月21日
"Enter Ofelia playing on a Lute"というト書きがあるが、その後はそういう女形を雇えなくて歌だけにしたというのもあり得なくはないと思っています。 @FintaPazza @akihito_suzuki @seikolute
— saebou (@Cristoforou) 2016年8月21日
いや、ありありだと思います。現在と違って「のちにリピート上演されるときのために一般的なト書き書いた」ということはありえないと思いますから。@Cristoforou @akihito_suzuki @seikolute
— まつもと(な) (@FintaPazza) 2016年8月21日
やっぱり秋の企画パネルのテーマはオフィーリアにしますかねぇ
— saebou (@Cristoforou) 2016年8月21日
同時進行で、会話が続くため、順序が前後している箇所もありますが、
このようにとてもエキサイティングな情報交換が行われました。
その他、哲学や思想史からのご指摘や、
私が把握しきれなかった各種の翻訳ではどうなっているか、
あるいは実際これまで上演された演劇ではこのシーンがどのように演出されていたか、など、
それぞれのジャンルの方々の間で話題となりました。
すべての情報は私にも把握できておりませんが、時の坩堝(@emanatio999)さんが
「裏古楽の楽しみ-リュートとシェイクスピア】としてまとめてくださっていますので、
こちらもご覧くださいませ。
情報をお寄せくださった皆様、「いいね」やRTをしてくださった方、読んでくださった方々、
どうもありがとうございました!