リュートカレンダー6月の絵 [愛しのリュート達]
6月のリュートカレンダーの絵は、先月に続き、
「リュートを弾く女性のうなじは美しい」シリーズ・第二弾!。
ジュセッペ・マリア・クレスピの【リュートを弾く女性】
Giuseppe Maria Crespi(1665-1747) “Woman playing a lute” です。
生没年を見ると、このリュートカレンダーシリーズでは、最も遅い生まれ、
バロック時代後期に位置するイタリア・ボローニャ派の画家です。
経歴を見ると、それなりに貴族やローマ教皇の寵愛を受けて活躍していたことがわかるのですが、
何よりユニークなのは、この人のファッションセンス!
黒っぽいぴっちりとした、スペイン風の服装を好んでいたことから、
「Lo Spagnuolo=スペイン人」というニックネームが残されています。
(リュートカレンダーでいうと2月の絵の男性みたいな服装か。これ100年前・・・)
例えば、J.S.バッハが1685年-1750年、ルイ14世が1638年-1715年と、やや近い時代で、
彼らの肖像画から想像されるのは、もっとチャラチャラ、ひらひら、頭はもふもふで、
柔らかく明るい色調の服装。
そんな中で、堅苦しいフォルムの黒服好みとは クレスピさん、
かなりユニークなファッションセンスの持ち主と言えるでしょう。
ここで、本人の自画像を。(1700年頃。35歳ごろ)
確かに黒っぽい服装、そして強い光がおデコに当たって、光と影の対比をなし、
とってもバロックらしい肖像ですね。
私には、ねじりハチマキ(!)して、左手でリュートの運指を確認しつつ、
タブラチュア書いているようにしか見えませんが・・・。(幻覚)
* * *
さて、絵を見ていくことにしましょう。
17世紀後半〜18世紀という時代、ボディの大きさ、トレブルライダー有り(バスライダー無)、
ということなどを考え合わせると、11コースのバロックリュートでしょう。
不鮮明で弦の数は正確には数えられず、ペグの数は11コースにしては少なく見えますが不明。
正面からの絵ではないので、細身のボローニャタイプとも断言できず。
このクレスピさんは、生涯イタリア内(ほとんどボローニャ)で活動した人であるにもかかわらず、
イタリアでバロックリュートが描かれていること自体が、興味深いと言えるでしょう。
イタリアでは この時代、アーチリュートやテオルボなど長い棹(バス)をもつリュートが
中心になっており、絵画で登場するのもそのタイプが多いからです。
テーブルの上に、ペグボックスの先と、リュートのボディの端を乗せて固定し、
調弦をしているところのようです。
この絵の最大の特徴は、リュートケースが大きく描かれている点です。
閉めた時に隙間ができないように 内側に一段高くした部分があったり、
蓋をパチンと閉じる金属部分などの細部がよく見えるように描かれています。
現代のリュートケースは、このように横に蝶番があって、横開きになる仕様ですが、
昔のは、ボディを横切るように蝶番があり、縦に開く仕様でした。
例として、ルネサンス時代(1550年頃)の絵「Concert of women」の女性たちの背後、
壁にぶら下げてあるリュートケースにご注目ください。
蓋が蝶番部分から下へ開いている状態でぶら下げてあり、
蓋の裏面に横方向へ補強がなされているのがよくわかります。
(この時代のリュートは小型でケースも軽く作られており、壁かけできたと推測されます)
今回のクレスピさんの絵のリュートは大きいので、壁掛けにはできそうになく、
全体の構造ももっとがっしりしています。
現代でも、この歴史的仕様のケースを作っている方もいらっしゃって、
わかりやすい写真が掲載されているので、ご覧ください。
博物館所蔵の歴史的なリュートケースの写真もあります(装飾が美しい)。
* * *
クレスピのリュート(とリュートケース)が登場する別の作品を。
「Fulvio Grati 伯爵の肖像」(1700-1720年頃)
右の楽譜を持っている男性は・・・少年? それとも妖精かな?(笑)
遠近感と人物の大きさの関係がよくわからないのですが、それは脇に置いておいて。
画面左端にリュートケースがあり、開いた状態がよくわかります。
先端部分の形状も先の作品とは少し違います。
楽譜が突っ込んであったりして、微笑ましい。
こちらのリュートは 大きさやペグの数、表面板の形から8コースルネサンスに見えますが、
どうでしょうか。
リボンをストラップにしていて、必ずしもテーブルにリュートを預ける形でばかりで
演奏していたわけではないこともわかります。
テーブルの方へ伸ばした手には、マンドリーノかソプラノリュートを持っています。
もう一点。「リュートを弾く若者」
暗い色彩で何がなんだか・・・。もはや、左手の親指の位置はよし!・・としか・・・。
ボディは大きめながら、トレブルライダーはなく、ペグの数からもルネサンスリュートに見えます。
次に、風俗画としてちょっとユニークな作品「本箱」(1725年頃)。
当時、ボローニャの有名な音楽学者・音楽批評家だったマルティーニからの委嘱作品。
「ちょっと参照して本の間に突っ込んだ」風情の紙切れ、ペンの羽軸の予備、
楽譜や本などが(埃と共に)詳細に描写されています。本のタイトルは読めるほどです。
この絵が壁にかけてあったら、本物の本箱があるように錯覚しそう、という
一種のだまし絵のような作品。
* * *
風俗画家としてだけでなく、宗教画、肖像画、風刺画など幅広い表現方法を持っている画家で、
今回取り上げた作品は、その芸風のごく一部でしかありません。
マイナーな画家で、あまり作品を多く見つけることができませんが、
Youtubeにその作品をまとめた動画がありましたので、ご覧ください。
バラの花や天使や女性たちが空を舞う、ゆるふわバロックな天井画や、
ロバなどの小動物や子供の表情がユーモラスなエッチング、
宗教や神話をテーマにした作品群などを見ることができます。
26分の動画ですので、お時間のあるときにゆっくりどうぞ。
【今月のおすすめCD】
ザンボーニのソナタ集(ルチアー二・コンティーニ氏または野入志津子さん演奏)を
おすすめしたかったのですが、すでにどれも販売終了の模様。
** 追記です!**
◉コンティーニ氏のザンボーニのソナタ集、AmazonでのCDの取り扱いはないようですが、
iTune Storeからのデータ購入が可能です。
Apple Musicにも入っているようなので、契約している方は是非。
◉Miguel de Olaso氏演奏の比較的新しい録音で、Giovanni Zamboni Romano もあります。
これは、曲目登録に何かミスがあった模様で、作曲家名がヴァイスと表記されますが、ザンボーニのソナタ集です。
複弦のアーチリュートで弾いているところが、上記2作との違いで、
それぞれの音色を聴き比べてみるのも良いでしょう。
イタリアバロックもので、リュートが活躍するのは、もうこれしかないでしょう。名曲です。
Vivaldi: Complete Works for Italian Lute/ヴィヴァルディ:四季イタリア・リュートのための作品全集 [Import]
- アーティスト:
- 出版社/メーカー: Bis (Swe)
- 発売日: 1988/03/01
- メディア: CD
- アーティスト: イル・ジャルディーノ・アルモニコ,ヴィヴァルディ,オノフリ(エンリコ),ピアンカ(ルーカ),ガルフェッティ(ドゥイリオ),ムジー(レオナルド),ポール(ウルフガング),メラティ(ジョルジオ),ルッソ(エレナ),ビアンキ(マルコ),ロナルディ(マッシモ)
- 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
- 発売日: 2015/03/11
- メディア: CD