リュートカレンダー4月の絵 [愛しのリュート達]
おっと、桜を見に行ったりしていたら、
リュートカレンダーについての記事が遅れてしまいました。
早速、4月の絵を見ていきましょう。
フェルメールの【窓辺でリュートを調弦する女】
Johannes Vermeer(1632-1675) "Woman with a lute near a window"
フェルメールについての概略(wiki)
リュートを描いた絵の中では、最も広く知られている作品といっても良いでしょう。
一つお断りしなくてはなりませんが、
カレンダーではこの絵の上下部分をトリミングしています。
横長サイズのカレンダーに対して、このまま掲載すると
あまりに人物とリュートが小さくなってしまうためです。
上記が作品の全体像になります。
保存状態が良くないこともあって、リュートの細部は判別できません。
ボディの形や、トレブルライダーの様子などから、10コースのルネサンスリュートを
11コースのバロックリュートに改造したリュートかと推測されます。
3コースあたりを調弦しているところかなーぐらいしかわかりません。
ロゼッタのデザインも不明瞭な状態です。
リュートを調弦しながら、窓の外に目をやる女性。
一緒にアンサンブルをする相手の到着を心待ちにしているところかもしれません。
というのも(トリミングしてしまった)画面の下、最も手前の床の上に、
ヴィオラ・ダ・ガンバが描かれているからです。
色合いが暗くて分かりにくいので、少し明るくしてみます。
テーブルクロスの下、 ↑ ここです。
テーブルの上には楽譜も数冊用意されていますね。
では、楽器が登場する他の作品を。
この中にいくつ楽器を見つけられますか?
【合奏】"The concert" (盗難に遭い、行方不明中)
答えは、5つ。
左から、テーブルの上にシターン。(1)
床の上に、ヴィオラ・ダ・ガンバ。(2)
女性が奏でているクラヴサン(チェンバロ)。(3)
そして、後ろ向きの男性がリュートを弾いています!(4)
肩越しに、曲がった棹が見えていて、かろうじて、リュートだと判別できます。
「もしもし、リュート奏者さん」と振り向かせたい!
ペグボックスが双頭になっているタイプのリュート、
例えば、次のヘラルド・テル・ボルフの作品に描かれているようなタイプの
リュートのようにも見えます。
この時期のオランダ絵画にはこのタイプのリュートが多く見られます。
ルネサンスリュートにそのまま、バス弦部分を付け足したような形で、
ルネサンスからバロックへの過渡期的なリュートと言っても良いでしょう。
【合奏】に戻って・・・。
右端の女性は、歌を歌っているようですが、楽器にはカウントしません。
あと一つの楽器は?
壁に掛かっている絵画(右)にご注目。リュートが描かれています。(5)
わかりにくいですけど。
これは、フェルメールの義母が所有していた、バビューレン作【取り持ち女】(模造品)で、
こんな作品。模造品が販売されるくらいなので、当時人気があったのでしょう。
この絵は他のフェルメール作品【ヴァージナルの前に座る女】の背後にも
描かれています。
「取り持ち女」とは、売春婦と客との仲立ちをする女性のことで、
この絵に影響されて、フェルメール自身も同じテーマで作品を残しています。
フェルメール作【取り持ち女】
左端の黒い衣装の男性が、フェルメール自身との説もあり(かわいいじゃないか!)
その左手にはグラス、そして右手に持っているのは、もしや リュートでは!?。
双頭タイプのバロックか、と思わず身を乗り出してしまいましたが、
もしかしたら、シターンかも。
シターンが登場する昨品【恋文】↓ と比較してみる。
(上)シターンのペグボックス部分を拡大。(下)フェルメールが持っている楽器(横向きに回転)
先端部分に、飾りの彫刻みたいなのが付いているようにも見えるから、
やっぱりシターンかな。どうでしょう。
ああ、そのテーブルクロスをめくってみたい!
【恋文】が出てきたついでに、シターンについても書いておきます。
この楽器、正面から見るとリュートに似ているので、よく混同されます。
別の作品【紳士とワインを飲む女】にも登場、椅子の上に置かれています。
側面〜背面からの形がよくわかりますが、リュートのボディの膨らみはなく、
こんなに薄べったい楽器なのです。
次に「ちょっと惜しかったなあ」という作品について。
【真珠の首飾りの少女】
X線で調査したところ、制作過程で椅子の上にリュートが描かれた跡があることが
分かっているそうです。(壁に地図もあった)
全体に光が差していて明るい作品ですし、
もしかしたら他の作品よりも明瞭な形でリュートが描かれたかもしれない。
そう考えると、絵全体の良し悪しはともかく「描いて欲しかったなあ」と思いますねぇ。
***
さて、フェルメールの全作品、33〜36点(学者によって意見が違う)のうち、
楽器が登場しているものは、13点あります。
約3分の1の作品に何らかの楽器が登場していることになります。
一覧にしてみると。
「リュートを調弦する女」(リュート、ヴィオラ・ダ・ガンバ)
「合奏」(リュート、シターン、ヴィオラ・ダ・ガンバ、クラヴサン)
「ギターを弾く女」(バロックギター)
「中断された音楽の稽古」(シターン)
「紳士とワインを飲む女」(シターン)
「恋文」(シターン)
「取り持ち女」(シターン?or リュート?)
「ヴァージナルの前に立つ女」(ヴァージナル)
「ヴァージナルの前に座る女」(ヴァージナル)
「ヴァージナルの前に座る若い女」(ヴァージナル)
「音楽の稽古」(ヴァージナル、ヴィオラ・ダ・ガンバ)
「絵画芸術」(トランペット)
「フルートを持つ女」(リコーダー)
フェルメール全作品はこちらで見ることができます。フェルメールの作品
大まかな時代別に並んでおり、画像をクリックすると、高画質で見ることができます。
フェルメールに限らず、この時代の作品は、小道具、登場人物、作中画、構図など、
あらゆる要素に「寓意」「象徴」が盛り込まれています。
例えば「音楽のレッスン」は「恋愛の駆け引き」「誘惑」などを暗示する、という具合に、
日常生活の一シーンを描いているようで、実は「ストーリー」や「教訓」が
示されていたりします。
そのあたりの解釈は上記のサイトにも簡単に説明されており、
近年の日本でのフェルメール人気もあって、数多くの書籍も出版されていますので、
興味のある方は、ぜひそちらもご覧いただけたら、と思います。
そういう脈絡では「楽器」は「愛と調和」を意味する小道具として、
または記号として描かれるわけですが、
私たちは そこから立ち上がる音や弦の響きを聴こうとすることに抗うことができません。
作品全体を包み込む光の粒の間を縫うように 弦の振動が音の波動となって広がり、
やがて様々な色合いへと変化していく、その移り変わりを皮膚で感じては、
この上もない快楽に身を委ねてしまうのです。
カレンダーに取り上げた作品は、リュートが不明瞭な形でしか描かれていませんが、
とても魅力的な作品と思えるのは、そのようなところに理由があるのかもしれません。
【おすすめCD】
ガット弦が好きな方に是非。リュート/アンソニー・ベイルズ
日本人の演奏家によるアンサンブルで!高音質による再販CD。
「オランダバロックの愉悦」 バロック時代のオランダの作曲家達による器楽作品集
- アーティスト: バロック時代のオランダの作曲家達,本村睦幸 (リコーダー),櫻田亨 (リュート、テオルボ、バロックギター),上尾直毅 (チェンバロ、オルガン、ミュウゼット、打楽器)
- 出版社/メーカー: WAON RECORDS
- 発売日: 2009/12/02
- メディア: CD
- アーティスト: バード,ゼレ,シャイデマン,クープラン,ナウヴァッハ,ロウズ,シャルパンティエ,ブクステフーデ,エルヴェ・ニケ,ジェレミー・サマリー,オックスフォード・カメラータ,マルティン・フンメル,カール・エルンスト・シュレイダー,グレン・ウィルソン
- 出版社/メーカー: Naxos
- 発売日: 2005/03/01
- メディア: CD
【書籍】
この本についてはブログで書いています。こちらもどうぞご覧ください。
過去ブログ記事:フェルメールの食卓