リュートカレンダー3月の絵 [愛しのリュート達]
お雛祭りも過ぎ、少しづつ春の訪れを感じる頃となりました。
それでは、リュートカレンダー3月の絵、
Theodoor Rombouts テオドール・ロンバウツ作〝The Lute Player”(リュート奏者)を
紹介していきましょう。
◎テオドール・ロンバウツは、カラヴァッジョ派の風俗画家で、
1597年フランドル(現在のオランダ〜フランス〜ベルギーあたり)のアントワープ生まれ。
1616年から25年までローマに滞在したのち、1625年に帰郷。27年に結婚。
その頃、故郷フランドルでは カラヴァッジョ派が大いに持てはやされていたため、
ローマ帰りのテオドールは 大成功! アントワープのギルド(職人組合)の親方となります。
その後、ルーベンスをリーダーとした長期にわたるプロジェクトに参加したのち、
1637年に 40歳で死去。晩年は、カラヴァッジョとルーベンスと、
どっちにしようか・・・と迷っているような(?!)作風となります。
◎今回の「リュート奏者」という作品は、1620年ローマ滞在の頃の作品。
カラヴァッジョのリュート奏者を描いた作品(カレンダーの9月を参照)や、
それに連なるカラヴァッジョ派の画家マンフレディのリュート奏者の肖像画(同、11月を参照)に
触発されて描かれたと考えられます。
カラヴァッジョとその流派の特徴としては、
光と影の強いコントラスト、生々しいまでの写実、ドラマティックな構図などが挙げられますが、
この作品においては、白く光が反射した両手、リュートや小物の描写にその特徴がよく表れています。
テーブルの上にあるのは、蓋付きの素焼きのジョッキとパイプ。
最初、スタバのタンブラー?と思ったのですが、考えてみたらこれが原型ですよね。
パイプでの喫煙という習慣もこの頃から始まります。
左にある紐のようなものは 火種でしょうか。
ビール飲んだりタバコ吸ったりしながら、これからのんびりリュートの練習ですか、と
思っていたら、ところがどっこい、絵描きの考えることは全然違った!
「弦が張ってある楽器は〝節制〟を象徴し、それを調弦するのに苦心している様子であれば、
愛と折り合いをつけることに もがいていることを示す。
この絵のように、蓋付きのジョッキやパイプが一緒に描かれている場合は、
より〝自制〟ということを強調している。」のだそうです。(ホントですか、これは)
眉間のシワは「あー全然、音あわないな、面倒くさいぜ。」かと思いきや、
そんな恋の悩みを抱えていらっしゃったとは。
リュートに注目してみると、これは紛れもなく10コースのルネサンスリュート。
写実的だから、分かりやすい。この時代の典型的なリュートと言えるでしょう。
表面板のスレて色が青くなったところも、古びた感じがよく出ています。
面白いのは、弦の張り方です。
このブリッジのところ、弦の端がぐじゃぐじゃなんですけど。↑
ペグボックスの方も、余った部分が派手にはみ出しております。↓
左指の爪が短く切り揃えられていて、リュート弾きとしてのリアリティはありますね。
◎リュートが登場する他の作品を見てみましょう。
「カードゲーム」(製作年/1620年代)
このリュートは、先のリュートと同じものと思われます。
カードゲーム(トランプ遊び)をする人物像は、カラヴァッジョも好んで描いたテーマです。
「バッカスと音楽の仲間たち」(製作年/1630年代)
仲良く腕を絡ませている中央の男女は、テオドール自身と妻をモデルにしていると言われています。
左端のリュート奏者は調弦をしているものの、その表情には余裕が見られるので
愛の葛藤はなく、結婚という愛の調和を象徴しているとか。
こちらのリュートは8コースのルネサンスリュート。拡大してみましょう。
フレットが斜めになっていたり、1フレットの間隔が狭かったり、
これは音程をどうこうしようという意図があるのか、雑なだけなのか、うーん。
次にテオルボを描いた作品を。
「五感の寓意」(製作年不詳)
左から、視覚(眼鏡)、聴覚(リュートの一種、テオルボ)、触覚(石膏像を撫でている)、
味覚(ワイングラスにお酒)、嗅覚(タバコとニンニク)を示しています。
リュートの裏側の膨らみを描くのは難しい。けど、描きたい。
そこで、この画家は二つに分けて描くという知恵を使っています。
テオルボ奏者の足元にもう一本、別のテオルボが後ろ向きに転がっています。
視覚を担当しているおじいさんが鏡を持っていて、その中にテオルボの表側が写っています。
最後にアーチリュートとバロックギターが登場する作品を。
「コンサート」(製作年/1620年頃)
これは、いかにもカラヴァッジョ的な光の使い方ですね。
2種の撥弦楽器の他に、トラヴェルソ、ヴァイオリンなどの器楽と、
そして中央の女性は歌手でしょうか、合奏を楽しんでいる風景のようです。
アーチリュートは机の上に置いて、奏者は中腰になって弾いているようにも見えます。
【今月のおすすめCD】
今回は、ちょうど時代が同じなので、私のCDをご紹介させていただきますね。
「ふらんすの恋歌」(ソプラノ:原雅巳/リュート:永田斉子)
1620年頃のフランスとオランダの作品より。
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