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なぜテオルボは生まれたのか [愛しのリュート達]


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先日、ポール・オデット氏にリュートについてあれこれとインタビューした記事が
ネットにアップされていました。

オペラのCD録音で2015年グラミー賞を受賞したというニュースに付随したものだったのですが、
「テオルボ(キタローネ)がどうして生まれたのか」について説明している部分が興味深かったので、
ざっと訳してみました。

お時間のある方は原文でどうぞ。原文のリンクはこちら




【リュートは優しい音ですが、今までに音量を大きくしようとした人はいますか?】

その歴史においてたった一度だけ、人々がリュートの音量を大きくしようとしたことがありました。

16世紀の人々は 大きな音量の音楽は 野卑で節度がなく洗練されてない音楽であると
感じていました。
会話と同じくらいの音量で演奏される音楽こそが、最も美しく洗練されていると感じていたのです。
繊細さと親密さを持っていたことが、結果として 表情豊かで意味深い音楽となり、
それゆえに、リュートはとても愛されていました。


フェルディナンド・ディ・メディチの結婚祝賀祭(註:1589年)で
リュートが伴奏楽器として使用された時、すごく面白い変化がリュートに起こりました。
この時が、人々が音量を大きくしたいと思った唯一の機会でした。
それは、1000人を収容するほど広い空間で リュートを聴こえるようにするためだったのです。


彼らは、バス・リュートの調弦をどんどん上げていきました。
一番高音の弦がすぐに切れるだろうということはわかっていましたが、それでもかまわず、
どんどん上げていきました。

彼らは、中音域と低音域に何が起きるかを知りたかったのです。
低音域の音は、ずっと明瞭になり、よく響くようになりました。
彼らは、さらに高く高く上げ続けました。ついに2番目の弦が切れました。
そして、3番目の弦が切れそうになる時、楽器が最もよく響くことを見いだしました。

彼らは、新しい調弦を創りだすよりも、むしろ単純に、
切れた1番目と2番目の弦に、通常の音高より1オクターヴ低くなるような太い弦を張りました。
そのリュートは歌の伴奏に使われていたので
(和音が変らなければ)オクターブの音の上げ下げは問題にならなかったのです。

歌手たちは、新しく何かを覚え直す必要もなく、
それまで通りのコードフォーム(指遣い)のままで、演奏をすることができたのです。
(この時、リュートは弾き語りで使用された)

しかしその結果、3番目の弦が最も高い音になりました。
このような、最も高い音が一番上の弦にあるわけではない、という不規則な弦の並びは、
リエントラント調弦と呼ばれています。

撥弦楽器にはこのような調弦のものが結構あります。
例えば、バロックギターとか。最も低い音は、下の弦ではなく真ん中あたりにあります。・・・



・・・などなど。

ここで述べられている楽器に、数年後バスの延長弦が加えられるようになり、
今でいうテオルボ/キタローネになると考えられます。

そのきっかけは、この説明を読む限り
「必要に迫られて、たった一度だけ音量増加を試みた」時に生まれた、
つまり「必要は発明の母」的な流れで生まれたわけですね。

当時の価値観からは許しがたい 勇気の要る新しい試みも、
その結婚祝典の一度きりで「やっぱりやめよ」とならず、「これ結構いいじゃん」となったわけで。・・・
瓢箪から駒。


その後のバロック時代におけるテオルボの重用ぶり、作品の充実ぶりを考えると、
時代の価値観や常識にとらわれず、何でも新しい試みをやってみるのがいいんじゃないかなあ、
と思うわけです。現代においても。


同様の情報は、ロバート・スペンサー氏のサイトにも詳しく掲載されています。
興味のある方は、こちらも合わせて是非。




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