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本「古楽再入門」(寺西肇/著) [お気に入り]


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昨年の初秋に発刊され話題になっていた本を、遅ればせながら読んでみました。

「古楽再入門〜思想と実践を知る徹底ガイド」寺西肇・著/春秋社

先日読んだアーノンクールの「古楽とは何か」が やや読みにくかったのに比べ、
こちらは、読みやすく、すいすいっと読み進めることができます。

決して「軽い」という意味ではなく、
十分な情報量と内容とを よく整理して上手く伝えている本だと思いました。

一人の視点から見れば、どうしたって解釈や選択肢の違いはあって当然ですが、
「古楽を知りたい人向けのガイドとして」という目的は十分に果たされているように思います。

古楽に長く興味を持ってきた人にとっては、ここらでその歴史を総括し、
自分の人生の来し方を振り返ってみる(大げさ)良い機会となるかもしれません。


どんな分野にしろ、この約100年間を概観してまとめるのは、
なかなか骨の折れる作業であろうし、
同時代を生きてきた人には それぞれに膨大な思い出があって、
「何を書かないか」という捨てる作業が大変だっただろうなあと想像してしまいました。
文章は簡潔であっさりしていますが、その背後に膨大な情報があることを感じます。


私は 興味のある分野が偏っており、さらに音源をよく聴いていた時期が偏っているので、
それらを埋め合わせるために・・・と読み始めたのですが、
ああ、全体はこんな風に流れていたのねぇ、と色々と発見があります。

物事が起こっている渦中にいると わからないことでも、
あとで振り返るとわかる、ということかもしれません。


                ***

各国別に 古楽の歴史や現在の状況、演奏家、教育システムなどが説明されている章は、
特徴を捉えていてわかりやすく、これから留学を検討している方には参考になるかもしれません。

スイス・バーゼルのスコラ・カントルムが なぜ優れた古楽演奏家を輩出し続けてきたのか、と
いう部分では、深く感じ入ってしまいました。

それは「スイスが中立国であるため、他国が戦後処理に手間取っている間も、
スコラでは 音楽教育を続けられたから」なのですが、

ちょうど この正月に「クリムト」という映画のDVDを観ていて、
全裸の美しいモデルさんが多数登場する夢のような芸術の世界が繰り広げられた後、
結局は ヒトラーによって作品没収、破壊されてしまうという結末に、
虚しさを感じているところでしたので、なおさら感慨深いものがありました。

                ***


その他、古楽器についての簡単な解説(写真や図入りでわかりやすい)、
音律、ピッチ、テンポについての解釈、古楽器とモダン楽器について、
参考資料としてCDと書籍情報、などの項目もあり、
「敷居が高い」と思われがちな古楽を、そう思わせない工夫が随所に見られます。

例えば「リュートの棹の先はなぜ曲がっているのか」という、
我々リュート奏者にとっての永遠の難題の一つが、あっさりと一文で説明されています。

曲がっている理由は それ一つだけではないと考えているので
ちょっとビックリしてしまうわけですが、
初心者の人に対しては、シンプルで平易な説明を優先し、
複雑なことは切り捨てるという潔さを感じます。

ひとたび古楽を好きになった人は 各自のペースで深みにはまっていくだろうから、
まずは 敬遠されないこと、嫌いにさせないということが大事ということですね。



レオンハルト氏、クイケン氏をはじめ 有名な演奏家の方々の言葉は、
「古楽演奏において最も大切なのは何か」ということを再確認する意味で
時々、読み直したいところです。


この著者は(狭い意味での)古楽器との決別、と書いていますが、
そんな時代になったのだということは 私も日々実感するところです。

「では、次なる古楽は?」と考える時、「古楽再入門」と名付けられたこの本は、
今の気分にピッタリ、グッドタイミングで出会った本となりました。




古楽再入門: 思想と実践を知る徹底ガイド

古楽再入門: 思想と実践を知る徹底ガイド

  • 作者: 寺西 肇
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2015/09/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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