SSブログ

続・スカボロー・フェア考 [コンサートのお知らせ]


simos&g.jpg

今回のコンサートは、バラッド・チューンと呼ばれる
伝承曲が隠しテーマになっております。

バラッドとは何か、については既に書いています。

現代までに、バラッドの幾つかは既に消滅してしまい、
またあるものはリュートの作品の中に変奏のテーマとして織り込まれ、
またグリーンスリーブズに代表されるように、脈々と時代ごとの様式で編曲されつつ
現在はイギリス民謡として認識されている曲もあります。

そんなバラッドの中で、最も有名になった曲はまぎれもなく、
「スカボロー・フェア」でしょう。
サイモンとガーファンクルが「スカボロー・フェア/詠唱」というタイトルで歌い、
映画「卒業」で使用されたことで大ヒットし、
世界中に知られることになりました。


既に「スカボロー・フェア」については、アロマテラピーの専門家の方との
コラボイベントを行った時に(2007年)16-17世紀バラッド版の歌詞について
気軽な短い記事を書いています。

スカボローフェアその1 16-17世紀版の歌詞
スカボローフェアその2 女性も伝言するが、人間関係はどうなっているのか
スカボローフェアその3 無理難題にどう答えれば満足するのか
スカバローフェアその4 呪文のように繰り返されるパセリ、セージ、ローズマリー、タイムの意味は
スカボローフェアその5 無理難題をぶつけ合う男女たち



その頃からこの曲の元歌が古いバラッドであることは認識しておりましたが、
最近、補足増強版の「バラッドの世界」(茂木健/春秋社)を再読しましたら、
わかりやすい説明がありましたので、かいつまんで紹介しておきます。




・サイモンとガーファンクルの「スカボロー・フェア/詠唱」は
歌詞、メロディともに作者不詳の伝統歌「スカーバラ・フェア」の骨格部分をそのまま流用、
「詠唱」と称する歌詞を追加し、反戦歌の装いを加味したもの。




・では、この伝統歌「スカーバラ・フェア」はいつの時代のものか?

バラッドの成立年代の見分け方は、
1)歌全体の構成から推定 2)歌い込まれている事象からの推定 という二つの方法がある。


まず1)歌全体の構成からの推定

15世紀ごろまでの古いバラッドは、1行目、3行目は音頭取りをする中心的歌手が歌い、
それに応える形で、2行目と4行目のリフレインを周囲の人々が歌う、という形式をもつ。

スカーバラ・フェアの歌詞の1節目を見てみると・・・

スカーバラの町の市へ行くのかい?
パセリ、セージ、ローズマリィ、タイム
あの町に住むある人に よろしく伝えてほしいんだ
その女は昔 俺の誠の恋人だったのだから

という形で数節が連なってゆき、どの節も2行目と4行目はリフレイン(繰り返し)となっている。
つまり、この曲は15世紀ごろの古いバラッドと言える。

2)歌いこまれている事象からの推定

ところが、2節目の1行目に「キャンブリック地のシャツを俺のために作るよう伝えてくれ」
という歌詞が出てくる。
キャンブリック地という綿織物がイングランドに輸入されたのは
17世紀になってから。さらに一般民衆まで普及したのは18世紀後半。

つまり、「スカーバラ・フェア」は構成上は古いバラッドであり、
内容上は18世紀の事物を含んだ比較的新しいバラッドという矛盾がおきる。
この場合、優先されるべきは「構成の方」。

なぜなら、バラッドは長い間、人々の生活の中で命脈を保ち、
その時々の生活が古くから歌われてきたバラッドに投影されていくから。
(形式を保ちつつ、歌詞は更新されていく)


この曲が古いバラッドである理由はもう一つ。
古いバラッドには、キリスト教定着以前の民間信仰、原始信仰の痕跡が色濃く残る。
この曲では主人公が話しかけている相手が全く返答しない点がその痕跡で、
主人公はこの世の人間でなく「異界の住人」なのである。

この曲は古いバラッドの中でも「問答の歌」の一つとして知られるが、
ここでいう「問答」とは、人間を異界に誘い込もうとする「異形のもの」
(多くの場合、老婆や身分の高い人物に化けていて、フェアリーと総称される)と、
誘い込まれまいとする人間のあいだに交わされる問答である。

以上・・・・・序章「スカーバラ・フェア」の世界へのいざない より



この曲の元歌のメロディとそれのディミニューション(変奏)、
サイモンとガーファンクル版のメロディをルネサンス風にアレンジして演奏します。

表記も、サイモンとガーファンクルの邦題が「スカボロー」だったため
それが定着していますが、今後は発音に近い「スカーバラ・フェア」を採用したいと思います。



今回ご紹介した「バラッドの世界〜ブリティッシュ・トラッドの系譜」(茂木健・著)は
音楽のみならず、英文学やブリティッシュ・ケルト文化に興味がある方にもおすすめです。


 

サイモンとガーファンクルのスカボローフェアの動画を貼っておきますね。
やっぱりいい曲ですね〜。


なんと、いろんな歌手が歌っている「スカボローフェア」のまとめサイトがありました。



nice!(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。