リュートカレンダー7月の絵 [愛しのリュート達]
7月に入り、いよいよ暑くなってまいりました。
リュートカレンダー7月の絵のリュート弾きさんも、片肌脱いでいます。
今月の絵は、
ヘラルト・ファン・ホントホルストの【音楽会】
Gerard van Honthorst (1592-1656)作 “The Concert ”です。
この作品は、フランスのある家で所有されていた作品で、最後に公開されたのが1795年。
アメリカ・ワシントンD.Cの国立美術館が 2013年に購入し、
実に、218年ぶりに公開されたという作品。
作者・ホントホルストはオランダ・ユトレヒトの画家。
生涯についての詳細は上記リンクよりご覧いただくとして、ポイントとしては、
・カラヴァッジョ派の画家である(細部の描写にリアリティがある)
・世俗画に個性が発揮されており、楽器を描いたものが多い
ことが挙げられます。
さっそく、掲題の作品の細部を拡大して見てみましょう。
8コースのルネサンスリュート。
低音弦と高音弦とで、太さや色が違うことまで、細かく描写されています。
テーブルの上に楽器を置き、右手の小指を表面板にしっかりつけることで、
楽器が仰向けに転がらないようにバランスを取っているように見えます。
この持ち方は左右の指が拘束されてしまい、演奏の自由をかなり奪います。
フレットは、シングル巻き。
1フレットの間隔が幅広く、2フレット目は狭いというミーントーン調律であることが見てとれます。
1フレット目にミニ(部分)フレットは貼っていないですね。
6コースの低音側の弦が、緩んでいるのか、癖がついているのか、ヨレッとしていて浮いています。
左右の指の、関節の描写が見事。
血の通った手の温かみや、関節の力の入れ具合までわかるくらいです。
他にも書きたいことは多々ありますが、
今回はリュートが登場する作品が他にたくさんありますので、ちゃっちゃと行きますよ!
まずは、リュートを調弦する女性たちの作品から。
【リュートを調弦する女性】(1624年)
今まで、リュートを調弦する様子を描いた作品をいくつか見てきましたが、
この女性の余裕の笑顔をご覧あれ。
おしゃべりしながらペグ回して、リュートの扱いに慣れている様子。
リュートカレンダー3月の絵のしかめっ面とはえらい違いです。
7コース・ルネサンスリュート。1コースは単弦(ナットに溝は2本あるが)。
このリュートは フレットの巻き方が面白い!
1〜3フレットまではダブルに巻き、それから上のフレットはシングル巻き。
ロゼッタのデザインもくっきり。
【リュートを調弦する女性】(1624年)
7コース・ルネサンスリュート。1コース単弦。
フレットはシングル巻き。
こちらも、余裕の笑み。
同じく、リュートの調弦をする女性の絵をもう一枚。
【リュート奏者】(1624年)
ペグの数から判断して7コース・ルネサンスリュート。
安定の笑顔。
ここからは、バルコニーでの音楽会シリーズになります。
【欄干に寄りかかった陽気なヴァイオリン弾きとリュート弾き、あるいは 音楽会】(1620年代)
弦の数、ペグボックスの形から判断するに、7コース・ルネサンスリュートかと。
1コース単弦、フレットはシングル巻き。
左のヴァイオリン奏者は 鼻の頭を赤くして、すっかりご機嫌です。
ついに、長棹のリュートも参加!
【バルコニーでの音楽会】(1624年)
右のリュートは7コース・ルネサンスリュート。
ボディの裏がシマシマ。イチイ材。
左は13コース・アーチリュート(調弦によってはテオルボ)。
「バルコニーでの音楽会」という設定で描かれた一連の絵は、
平面の壁なのに、その奥に部屋があるかのように見せかける「Trompe l'oeil」(だまし絵)の
手法が用いられています。
同様の作品をもう一枚。
【バルコニーの音楽家たち】(1622年)
彼自身の家の天井画として制作されたもの。
自分の家の天井がこんなだったら、落ち着きません・・・。
距離が遠くて(!?)リュートもアーチリュートも弦の数は不明です。
右上の角にもリュート奏者がいますが、手抜きな感じ。
天井に描いているうちに、首が痛くなったのでしょうか。
カラフルなオウムと犬が、人々の間からひょっこり顔を出していて愛嬌がありますね。
ここからは「蝋燭の灯りにぼんやり照らされるリュート」シリーズです。
光の使い方にカラヴァッジョの影響がうかがえます。
【取りもち女】(1625年)
7コース・ルネサンスリュート。
今までもフェルメールの作品などで登場したテーマ「取りもち女」。
参考記事:リュートカレンダー4月の絵
右の女性(娼婦)が「いいリュートでしょ? 新しく手に入れたの・・・」なんて
リュートの話題で 男の興味をひきつつ、
ちゃっかり 左端の取りもち老女が仕事を斡旋している場面。
オランダ語でリュートを示す “luit” が別の(卑猥な)意味があるという記事を
読んだのだけど、確証とれず。
うーん、オランダ語、恐ろしや。
【夕の宴】(1619年頃)
ルネサンス・リュートだと思われますが、詳細不明。
リュートを楽しみつつの、夕食風景。(右の3人は何をしているんだろう・・・)
【音楽の宴】(制作年不詳)
リュートについては詳細不明。
テーブルの上に、後ろが膨らんだタイプのバロックギターが伏せて置いてあります。
ほのかな灯りで熱心に楽譜を見ながら歌っている二人に対して、
リュート奏者はちょっと上の空な態度に見えます。飽きちゃってる?
【陽気な仲間】(1623年)
手前の男性の陰になっていて見づらいのですが、
中央の女性が、長棹のリュートを持っています。
「陽気な仲間」と題されているものの、左奥にぼんやりと(ちょっと怖い)立っている
赤ん坊を抱いた老女は「取りもち女」です。
すなわち、ここでもリュート弾きの女性は 娼婦です。
ここからは、バロックギターシリーズになります。
【ギターを弾く女性】(1624年)
楽器に落とされた影と右手の描写が、まるで「ぶれた写真」のような効果を醸し出し、
ラスゲアードしている右手の動きが感じられる作品です。
弦の張り方、左右の手の形など、とてもリアリティがあります。
【ギターを持つ女性】(1631年)
バロックギターを調弦する女性。やっぱり笑顔です。
ペグを回している左手の小指が立っている様が 微笑ましい。
バロックギターの2作品は、どちらも5コース、1コースは単弦、フレットはシングル巻き。
***
どの作品も内側から発光するような美しい肌の描写、
衣装(特に、頭につけた豪華な羽根飾り)にも見所がありますが、
今回はリュート、ギターの弦の数、フレッティングに絞って観察してみました。
(高解像度の画像を探し、拡大して観察してみた結果を書いていますが、
そのままデータをアップすると重くなってしまい、閲覧環境によっては見れない方もいらっしゃるので、
記事内には軽いデータを貼っています。)
1620年代には、もう10コースリュートがメインの時代かと思いきや、
案外、7-8コースも共存していることがわかります。
しかしながら、全体として印象に残るのは「楽器を弾く女性たちの笑顔が素敵!」ということ。
こんな風にリュートを弾きたいものですね。
小難しいことは、もはやどうでもいい。
画家の自画像はこちら。
リュートをいっぱい描いてくれて、ありがとう。
【今月のおすすめCD】
Paul O'Detteのニコラ・ヴァレのリュートソロ作品集。
Amazonプライム会員の方は現在、無料でダウンロード可能のようです。