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もう一つのオルフェウス@シェイクスピア [愛しのリュート達]



Jean-Baptiste-Camille_Corot_-_Orphée.jpg

Jean-Baptiste-Camille  Corot(コロー)による作品「Orphee 」。
ギリシャ神話に基づき、リラ(竪琴)を手にしています。


2016年7月に北海道で行うリュートコンサートのチラシ裏で引用している
シェイクスピアの文章、スペースの関係で省略しておりますので、
ここでその詩の全体を記載しておきます。
(拙訳につき、詩の押韻などは日本語には反映させていませんが、ご了承ください。)

 

『ヘンリー八世』(第3幕第1場)

 

Orpheus with his lute made trees,

And the mountain tops that freeze,

Bow themselves when he did sing:

To his music plants and flowers

Ever sprung; as sun and showers

There had made a lasting spring.


Every thing that heard him play,

Even the billows of the sea,

Hung their heads, and then lay by.

In sweet music is such art,

Killing care and grief of heart

Fall asleep, or hearing, die.

   

オルフェウスがリュートをとって歌えば、

樹々や凍った山の頂も、         

その身を低くして耳を傾ける。

オルフェウスの調べにつれて 草や花は萌出でる。

陽の光と雨の恵みがそこに

永遠の春をもたらしたかのように。

 


オルフェウスの歌声を聞いたものはみな、
海の高波さえも
その波頭を鎮めて凪いでしまう。
その甘美な音楽にはそのような不思議な働きがあり、
心配事や深い悲しみは 
眠りにつき、やがて死に絶える。

 

 

 


これについては、これまでも何度か書いていますが、

実は、シェイクスピアの他の作品にも、
オルフェウスがリュートを弾くシーンがあることを知りました。



『ヴェローナの二紳士』(第3幕第2場)

ある女性に想いをよせる青年に「ラブレターを書いてみてはどうか」と
友人がアドヴァイスしているシーン。


Say that upon the altar of her beauty 
You sacrifice your tears, your sighs, your heart: 
Write till your ink be dry, and with your tears 
Moist it again, and frame some feeling line 
That may discover such integrity: 
For Orpheus' lute was strung with poets' sinews, 
Whose golden touch could soften steel and stones, 
Make tigers tame and huge leviathans 
Forsake unsounded deeps to dance on sands. 
After your dire-lamenting elegies, 
Visit by night your lady's chamber-window 
With some sweet concert; to their instruments 
Tune a deploring dump: the night's dead silence 
Will well become such sweet-complaining grievance. 
This, or else nothing, will inherit her.


(その手紙の中で)彼女の美の祭壇に
君の涙と、ため息と、心とを捧げます、と言うのだ。
インクが乾くまで書いたら、君の涙で、
それをもう一度濡らすのだ。
そのような誠意が伝わるように文章を組み立てるのだ。
オルフェウスのリュートは、詩人の腱を弦にしたもの。
その黄金の調べは鉄や石を柔らかくし、
虎を手なずけ、巨鯨リヴァイアサンを
底知れぬ海から出て砂の上で躍らせたという。

君は、哀しみの詩を書き送ったあと、
甘美な調べを奏する楽師たちと共に、
夜毎、彼女の窓辺を訪ねるがいい。その楽器に合わせて、
嘆きの歌を歌うのだ。夜の静寂は
そのような甘い嘆きの歌にぴったりだ。
これが、他でもなくこれこそが、彼女を手に入れる方法なのだ。


      ***

先の詩では、植物や海などの自然を思いのままに動かし、
この詩では、鉄や石などの鉱物を溶かす力をもち、
虎や想像上のクジラまで手なずけるとは、
オルフェウスは、もはや超能力者ですね。


「オルフェウスのリュートは」部分、小田島雄志氏は
「オルフェウスの竪琴は詩人の神経を弦にしたもの」と訳されていています。

「リュートは詩人の神経を弦にしたもの」・・・キャッチコピーになりそうです。

リュートの弦が多くなればなるほど、図太い神経から繊細な神経まで
持ち合わせないといけませんね。
多分そういう意味ではないと思いますが、リュート奏者はいろいろ考えてしまう。


ここでは、sinewsを 通常の「腱」とそのまま訳し、
「腱」と「弦」のもつ糸状のイメージや語感の響きを合わせてみるのもよいかと考え、
以上のように訳してみました。


後半部分をみると、恋人のバルコニーの下でリュートを弾きながら歌うという、
一般によく知られたリュートのイメージの原点がここにあることに気がつきます。


参考にした本は、以下の通り。


ヘンリー八世 (白水Uブックス (37))

ヘンリー八世 (白水Uブックス (37))

  • 作者: ウィリアム・シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 1983/10/01
  • メディア: 新書










ヴェローナの二紳士 (白水Uブックス (8))

ヴェローナの二紳士 (白水Uブックス (8))

  • 作者: ウィリアム・シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 1983/10/01
  • メディア: 新書








*サイコパスといわれるヘンリー八世。血みどろの人生です。



ヘンリー八世の六人の妃

ヘンリー八世の六人の妃

  • 作者: アントーニア フレイザー
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 1999/08
  • メディア: 単行本









王妃の闘い―ヘンリー八世と六人の妻たち

王妃の闘い―ヘンリー八世と六人の妻たち

  • 作者: ダイクストラ 好子
  • 出版社/メーカー: 未知谷
  • 発売日: 2001/05
  • メディア: 単行本













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