詳細すぎる日記 [お気に入り]
調べもののついでに 図書館から借りてきた一冊。
「江戸の明け暮れ」森田 誠吾・著。
江戸時代の生活や文化についての話かと思いきや、全然違う内容で、
滝沢馬琴の日記に基づく、ちょっとミステリー風味の小説だった。
この日記というのが、物書きだからなのか 性格なのか、とにかく細かい。
一日の天気の移り変わり、来客(その住所まで)の様子、
出かけた先での出来事、家族の機嫌、揉め事、
貸したもの、借りたものの詳細、お金の出入り、
近所の他家の様子、執筆の進み具合、食糧や日用品の価格、などなど。
あらゆることが微に入り細に入り、書き留められ、それが毎日、何十年間も続く。
馬琴が年老いて、失明したり病気になって筆を持てなくなると、
代わりに嫁が書く。同じように、これまた細かい。
嫁が病で寝付けば その息子が書く、といった具合。
これはもう個人の日記というより、滝沢家の業務日誌であり、
滝沢家の家伝を残すというミッションのもとに 家族総出で執筆しているという感じである。
こんな舅のいるウチの嫁なんか嫌だよ、と思うのだけれど、
この嫁がまた、利発で忍耐強く情愛細やかな女性で、
晩年には、馬琴の執筆活動のよきアシスタントになっていくから 面白い。
まるで滝沢家のホームドラマを見ているような気分であった。
200年前の江戸人にこれほどまでの親近感を持つとは!
原稿料のことを、馬琴は「潤筆」と呼んだという。
風雅な言葉である。リュート弾きなら「張弦」といったところか。通じない。
装丁が違いますが、本の情報はこちら。